第1章 第二次中央大陸戦争終結

ZAC2109年世界情勢

2109年4月勢力図

主要各国保有ゾイド

へリック亡命政府

  • マッドサンダー…2
  • ウルトラザウルス…1
  • ライガーゼロ…6
  • ゴジュラスギガ…12
  • 凱龍輝…47
  • ライガーゼロ…31
  • ファイヤーフェニックス…929
  • ジェットファルコン…1
  • アロザウラー…1301
  • ゴルヘックス…1172
  • レイノス…1285
  • ディスペロウ…2571
  • レオゲーター…4751
  • ディメトロプテラ…1303
  • エヴォフライヤー…5244
  • カノンダイバー…1987
  • レオストライカー…6322
  • スナイプマスター…2872

ネオゼネバス帝国

  • デスザウラー…1
  • エナジーライガー…4
  • アイアンコング…58
  • セイスモサウルス…45
  • ライガーゼロイクス…5
  • セイバータイガー…732
  • レッドホーン…829
  • ダークスパイナー…424
  • ディメトロドン…521
  • ウオディック…523
  • ロードゲイル…3441
  • スティルアーマー…3523
  • シュトルヒ…2731
  • ライガーゼロイクス…5
  • シザーストーム…11920
  • レーザーストーム…11912
  • ディアントラー…12136
  • フライシザース…12756
  • ヘルキャット…1801
  • ハンマーロック…2974

ガイロス帝国

  • デスザウラー…2
  • アイアンコング…21
  • バーサークフューラー…9
  • ジェノザウラー…183
  • セイバータイガー…223
  • レッドホーン…304
  • ライトニングサイクス…598
  • ヘルディガンナー…843
  • ブラキオス…696
  • ウオディック…597
  • レドラー…875
  • ザバット…1950
  • シンカー…1581
  • レブラプター…2765

 時はZAC2109年、中央大陸は8年前にゼネバスの子孫を名乗るヴォルフ・ムーロア率いる「アイゼンドラグーン」に急襲され、へリック共和国は崩壊、中央大陸はヴォルフのネオゼネバス帝国の手に落ちた、ヴォルフの父、元ガイロス帝国摂政ギュンター・プロイツェンの策略にはまり壊滅的被害を受けたへリック共和国とガイロス帝国には、ネオゼネバスに対抗できる力は無く、世界はネオゼネバスに支配されようとしている事は誰の目にも明らかであった…。

 しかし2107年、世界情勢はにわかに変化の兆しを見せた、へリック共和国の残党をまとめ上げ、東方大陸へ渡り臨時政府を立ち上げた前大統領の遺児、ロブ・ハーマンは当大陸のゾイド開発企業「ゾイテック」の力を借り、人口ゾイド「ブロックス」を配備して力を取り戻し中央大陸へ侵攻、もはやへリックに力は無いと完全に油断していたネオゼネバスは各地で敗北を繰り返し、さらに、へリックと同盟を結んでいたガイロスの援軍によってついにネオゼネバス帝国首都にまで追い詰める事に成功した。

 だが、ネオゼネバス帝国の力は未だ強大であり、各地に飛散している戦力が結集すれば勝ち目はない、まさに時間との勝負であり、また、世界の運命を決める決戦の火ぶたが切って落とされようとしていた。

総攻撃開始

 その日、へリック大統領ロブ・ハーマンは早急なる決着を付けるべくネオゼネバス帝都へ向けて全軍を挙げての総攻撃を命じた。
 へリック軍ゾイド軍団約2万5千、対するネオゼネバス帝都守備隊約1万、半分以下の戦力ながら帝都守備隊はへリック軍の苛烈なる攻撃によく持ちこたえていた、圧倒的劣勢の中、ほぼ気力で持ちこたえているとも言えるが、彼らの精神を支え得たのは、戦場に真紅に光り輝く皇帝ヴォルフ自らが駆るエナジーライガーの姿があったからであった。

 国家元首自らが戦場に、それも最前線で直接敵と相対するなど、確かにかつてはゾイド人の美徳とされて来た事ではあったが、近年では全く異例の事であり、この英雄的とも言える勇敢なる皇帝の姿に、ネオゼネバス将兵の士気は否が応にも高まった。
 言わば、絶望的状況ながら帝国軍がここまで持ちこたえる事が出来たのは、この皇帝ただ一人の働きによるものと言っても過言では無いだろう。

 しかし、それは裏を返せばこの皇帝さえ倒せばネオゼネバスも落ちたも当然という事でもある、それをロブ・ハーマンは見逃さず、ある男に総攻撃の乱戦に乗じてヴォルフを討ち取るよう密命を与え放っていた。
 そして、大統領の狙い通り戦場は敵味方入り乱れての大乱戦に陥り、ヴォルフ駆るエナジーライガーも敵軍の真っただ中で孤立すると言う事態に陥っていた…。

「ズィグナー、応答しろズィグナー!!」

 周囲を十数体もの敵ゾイドに囲まれ完全に孤立した皇帝機、ヴォルフは敵ゾイドを切り伏せつつも、先ほどまで周囲を護衛していた親衛隊長ズィグナーに向け必死に無線で呼びかけていた、しかし、いくら呼びかけても全く応答が無い。
 見ると、小高い岩山の上にディメトロプテラがディメトロドンモードに変形して展開されているのが見えた。

(やられた! 通信妨害か、俺は完全に孤立している…!)

 倒しても倒しても敵ゾイドは無限の如く現れる。

「俺は、俺は死ぬわけにはいかんのだぁぁぁーーー!!!」

 エナジーライガーのエクスブレードにより真っ二つに引き裂かれ崩れ落ちるアロザウラー、もうすでに十数機は倒したであろうか、だが、さすがのヴォルフも気力は限界に達し死を覚悟し始めていた。
 …その時! 敵軍をかき分けて3機のライガーゼロイクスがこちらに向かって来るのが見えた。

「あれは我が親衛隊機か!? 助かった…。」

 ヴォルフが安堵したのも束の間、3機のゼロイクスはレーザークローを振りかぶって皇帝のエナジーライガーに踊り掛かった。

「なに!? 貴様ら乱心したか!!」

 ヴォルフはエナジーチャージャーを作動させ一気に加速、右サイドに装備されていたガトリング砲を破壊されるも、3つの凶刃から間一髪で逃れる事に成功した。
 思いもかけない出来事に驚き高鳴る鼓動を押さえつつヴォルフは3機のゼロイクスの方に向き直る、そこでヴォルフの目に映ったのはイクスアーマーを脱ぎ捨てファイヤーフェニックスと合体した3機のゼロフェニックスの姿であった…!

皇帝死す!?

「聞こえるかヴォルフ、我が名はレイ・グレック! 大統領の命により貴様の命を貰いに来た! 貴様は完全に包囲されている、おとなしく投降するなら法廷で言い訳くらいはさせてやるぞ」

 近距離だからであろう、通信妨害下ではあったが突然無線機から声が聞こえてきた ーレイ・グレックー その名を耳にした時、疲れ切って消えようとしていたヴォルフの闘志が再び燃え盛った。
 レイ・グレック、彼はへリックきっての高速戦闘ゾイドの使い手で、特にライガーの扱いに長けた者に与えられる「レオマスター」の称号を持つスーパーエースパイロットである、そして、ヴォルフとは数々の因縁を積み重ねてきた宿命の敵でもあった。

「レイか…、フン! 今の奇襲で俺を倒せなかったのが運の尽きだ、その機体ではどうあがこうとこのエナジーライガーには勝てんぞ、今こそ数々の因縁に終止符を打ってやる!!」

「…ならば死ねぇー!!」

 3機のゼロフェニックスは高速で滑空しながらエナジーライガーに突進していく、だが、ヴォルフの言葉は単なる虚勢では無かった、エナジーライガーとゼロフェニックスの性能には天と地ほどの差がある、さらに再び闘志に火が付いたヴォルフは強く、3体のゼロフェニックスの攻撃を難なくかわし、2体は瞬く間に戦闘不能に追い込まれ、レイも致命傷こそ免れたもののすでにフェニックスアーマーは破壊され絶体絶命の危機に陥っていた。

 ノーマルタイプではエナジーに勝つ確率は1パーセントも無い、前方には次の一撃で勝負を付けようと頭部の角を突出し最高速660キロで突進してくるエナジーライガーの姿が映る、レイは死を覚悟した。

 …その時、天空から巨大な鳥の様な影が舞い降りライガーゼロと重なり合ったように見えた、直後ゼロの居た空間をエナジーが駆け抜ける、だが、その角とブレードはむなしく空を切っただけであった。
 勝利を確信していたヴォルフはあり得ない事実に一瞬頭が真っ白になったが、すぐにけたたましく鳴る警報音に我に返る、そしてセンサーが示す方を見ると高速でこちらへ向かって来るライガーの姿が映った、だが、あの距離からのゼロの攻撃などかわすのはわけない事だ、ヴォルフはエナジーチャージャーを作動させる。

 次の瞬間、凄まじい衝撃と共にエナジーのコックピット内の電装がすべて落ち真っ暗になった、同時に生命体故に感じられるゾイド独特の温かみも感じられなくなった、それはエナジーライガーの死を意味していた。
 エナジーライガーは謎のライガータイプの背に装備された巨大なクローによって脇腹を貫かれていた、それは正確にコアを貫き、一撃でエナジーを仕留めていたのであった。

 エナジーを倒したライガータイプ、それは完成したばかりのゼロの新たなるチェンジングアーマーブロックス「ジェットファルコン」と合体したライガーゼロファルコンであった。
 ゼロファルコンの性能はエナジーライガーに匹敵していた、そして何より、この新型機を瞬時に乗りこなしたレイの卓越した操縦センスがエナジーを仕留める事を可能にしたのであった。

 一度は真っ暗になり静まり返ったエナジーのコックピット内、だが、しばらくすると再び電装が点灯し駆動音が響き始めた、同時に無線機から聞きなれた声が聞こえてくる。

「ご無事ですか閣下! 今助けに参りますぞ!!」

 それは親衛隊長ズィグナー・フォイアーの声であった、彼はヴォルフを血眼になって探し援軍を引き連れついに駆けつけたのである。
 だが、次の瞬間ヴォルフから発せられた言葉は誰もが予想しない事であった。

「来るなズィグナー! エナジーチャージャーが暴走を起こした、このままでは周囲数キロを巻き込む大爆発を起こすだろう、余はこいつを少しでも遠ざける、卿はすぐに全軍を退避させてくれ! もうこれ以上犠牲者を増やしてはならん! レイも聞いているか? お前もすぐにへリック軍をこの場から遠ざけてくれ! 頼む!!」

 だが、いくら主君の命令とは言え、その様な命令に従う訳にはいかない、ズィグナーはヴォルフの元へ駆けつけようと立ちふさがる敵を必死に倒した、だが、倒しても倒しても次なる敵が現れ一向に近づくことが出来ない。
 そうこうしているうちに先ほどまでレイとヴォルフがいたあたりから天空に向かってまばゆい一筋の光の柱が放たれたかと思うと、直後周囲数百メートルを巻き込む大爆発が起きる、ズィグナーの乗るエナジーライガーもすさまじい爆風により吹き飛ばされた。

 心の支えであった皇帝が散るのを目の当たりにした帝国軍は大混乱に陥った、その隙を突いてへリック軍は雪崩のような猛攻撃を加える。
 防衛線の一角を崩された帝国軍は総崩れとなり帝都へ向け退却していった。

悲壮な覚悟

 決死のしんがりの活躍により帝国軍はからくも帝都へと逃れる事に成功した、だが、すでにゾイド戦力の3分の1を失っていた。
 勢いに乗るへリック軍は雪崩を打って帝都へ押し寄せる、だが、帝国軍総司令官ジーニアス・デルダロスは冷静に軍を立て直し、かねてより建設を進めていたコンクリートの分厚い防壁を盾にアイアンコング、セイスモサウルス、レッドホーンなど、帝国軍の誇る強力ゾイドを集中配備して鉄壁の守りを敷いた。

 これに対しへリック軍総司令官ジョン・パーソンズは強行突撃を命じたが、すさまじい砲火により次々とゾイドは倒され、セイスモサウルスのゼネバス砲により切り札のゴジュラスギガを4機も損失すると言う痛手を受けた。
 強行突破は難しいと見たパーソンズはファイヤーフェニックス、エヴォフライヤーによる空襲も試みたが凄まじい対空砲火とフライシザースの特攻によって全機撃墜と言う結果に終わる。
 帝都攻略は一筋縄では行かない事を悟ったパーソンズは一旦軍を引き近くへ陣を敷く、こうして今日の総攻撃では決着には至らず、ネオゼネバスは首の皮一枚で命をつないだ。

 その日の夜、帝国軍総司令部室では幹部たちが集まり、「徹底抗戦だ」「降伏だ」と数時間にわたり激しい議論が繰り広げられていた。

「こうなってしまってはもはや帝都の陥落も時間の問題であり、勢力を挽回するのは到底不可能だろう、だが! 閣下が、ゼネバスの血筋さえ絶えぬ限り、再び決起するチャンスは必ず来る!! 大丈夫、閣下は生きておられるさ、閣下の機体には高性能の脱出装置が備わっていたでは無いか、ここは我らが時間を稼ぎ、その隙に閣下を見つけ出して大陸から脱出させるのが臣下としての最後の務めであろう」

 総司令官ジーニアスは大声でそう言い放ち一同を見渡した、皆うつむき考え込んでいたが、参謀総長のガルド・クーガルが席を立ち意見する。

「しかし将軍、もはや世界の我らに対する信用は地に落ち、かつてのガイロス帝国の様に受け入れてくれる国も無いでしょう、もし本当に閣下が生きておられ仮に脱出に成功したとしても、拠って立つ地も無いのではゼネバス再興など不可能です、こうなったら無意味な犠牲者を出すより潔く降伏する事こそが賢明かと思います、何より臣民の事を想っておられた閣下の事、閣下がもしここにおられたら同じことを言われたと…」

「ハンス・シュテルマー…。」

 ガルドが意見を言い終わるのも待たず、ジーニアスがおもむろにある人物の名を告げた、その人物の名を聞いた瞬間、一同の視線は一瞬にしてジーニアスに向けられる、しかし、彼らの顔はこわばり、中には額に青筋を浮かべている者さえいる。

 -ハンス・シュテルマーー 彼はすでに齢70を超した老将であるが超優秀な司令官で、かつてゼネバス帝国がガイロス帝国に接収された際、積極的にガイロス帝国の為に戦いへリック共和国を苦しめ、その働きによって暗黒大陸へ逃れたゼネバス人の身柄も安堵される事となった、ゼネバス人にとっての英雄であり、ヴォルフの父、当時ガイロス帝国摂政を務めていたギュンター・プロイツェンでさえ頭が上がらない存在であった。
 そしてあの日…、ギュンターがガイロス帝国に対し謀反を起こした時、シュテルマーはギュンターの計画は無謀であると異を唱え、配下の一軍を率いてどこかへ行方をくらましたのであった。

 もしも彼がギュンターの謀反に加担していたら、あるいはヴォルフの力になってくれていたならもう少し良い方向で状況は変わっていたはずである。
 ゼネバスに恩顧を賜った身でありながらまるで反逆とも取れるシュテルマーの行動にネオゼネバス将兵は憤慨し、彼を逆賊として名を口にすることさせ嫌うほどであった。
 風のうわさでは行方をくらました彼はその後、極東に浮かぶ「ヘリオス島」と言う島国を占拠し帝国を築き上げつつあるようであった。

「まさか…、奴を頼れと…!?」

 ガルドは顔を引きつらせながらがっくりと椅子にもたれかかった。

「…違うな、頼るのではない、利用するのだ! 今は頭を下げる事になろうとも、いつの日か力を蓄えヴォルフ様にはもう一度正義の軍を立ち上げていただくのだ! 皆依存はあるまいな?」

 一同の心の中ではすでに奴に頼るしか道は無くなった事は分っていたのだ、ジーニアスのこの「利用する」の一言が幾分かの慰めになり、皆下を向いて黙ったまま頷くのだった。

「…すまない、ではズィグナー殿、貴殿はヘルキャットを用意する故、配下の親衛隊を使ってヴォルフ様の捜索にあたってもらいたい、そして閣下が見つかり次第、北東の海岸にウオディックを数機用意する故それを使って脱出してほしい、私は閣下のデスザウラーをお借りしてもうひと暴れし、明日の夕刻まではへリック軍の目を引き付けて見せよう」

「承知…!!」

 生気の抜けたようなうつろな目をし、椅子にも掛けず床に座り込んでいたヴォルフ親衛隊長ズィグナー・フォイアーの目に再び生気が宿り力強くうなずいた、そのズィグナーの元へガルドが近づく。

「ズィグナー殿、では私に親衛隊のエナジーライガーを預けてもらいたい、私は閣下に扮し影武者としてエナジーライガーで出撃する、私が閣下として死ねば一時でも閣下を奴らの追跡の目から逃れさせる事が出来るだろう、それから、これを持って行ってくれ、私が長年練り上げてきた最強ゾイド軍団計画構想とゾイド強化設計のデータだ、これが私の最後の献策です、よろしく頼みましたよ」

 そう言ってガルドは小さなディスクをズィグナーへ渡す、ジーニアス、そしてガルドの悲壮な覚悟に一同目頭が熱くなるのを覚えるのだった。

渦巻く陰謀

 一方その頃、帝都近郊に陣を敷いたへリック軍総司令官ジョン・パーソンズは、明日の帝都攻略に向けて指揮官達を集めて作戦会議を開いていた。

「ワシの考える所では、マッドサンダー2機による突撃であの防壁を破壊し、決死の高速戦闘部隊を突入させてセイスモサウルスを鎮圧、その後全軍をもって一気に制圧するのが良いと思うが、何か意見はあるかな?」

 パーソンズはそう言うと集まった司令官たちを見渡した、そこへ天才司令官と名高いダグラス・マッカートニーが立ち上がり意見を述べる。

「しかし、いくらマッドサンダーと言えど、数十門のゼネバス砲の砲撃には耐えられません、仮に護衛に凱龍輝を付けたとしても防壁を破壊するのが精一杯でしょう、敵はまだデスザウラーを温存している可能性もあり、ここでマッドサンダーを失うのは不安が残ります」

「なーに、これまでの戦いで奴らは相当数のデスザウラーを損失している、もはや残っていても2、3機程度だろう、こちらにはまだゴジュラスギガが8機も残っている、案ずるに及ばんよ。」

「…確かに、下手な策など弄さずとも我らの勝利は揺るがないでしょう、しかし、もう一つ気がかりなのはデスザウラー2機を有するガイロス援軍の存在です、もしマッドサンダーを失い、ゴジュラスギガ部隊もダメージを負った時、背後を奴らに突かれたら…」

 同盟国ガイロスが裏切る…、さすがにここまでは計算外、いや、考えたくない事実に無意識のうちに思考から外していたのであろう、十分あり得るマッカートニーの言葉に、不敵な笑みを浮かべていたパーソンズ将軍の顔が曇る。

「な、なるほど…、ハーマン大統領とガイロス帝国宰相シュバルツは親友同士と聞いているから同盟を破ることなど無いとは思うが、シュバルツは今本国にいるのだったな、そうなると血に飢えたオオカミどもが何をしでかすかわからんな…」

「そこでどうでしょう? そのガイロスに援軍を要請し、デスザウラーをこちらに呼び寄せるのです、デスザウラーにはデスザウラー、これで相打ちにでもなればガイロスの力は完全に地に落ち、戦後の外交戦略も我が方の圧倒的優位で進める事が出来ます、まさに一石二鳥でしょう」

「フフ…、フハハハハ!! さすがは天才マッカートニーだ、気に入ったぞ、さっそくガイロスへ援軍の使者を送れ!!」

 こうして数刻後、すでに日付も変わりかける深夜、続々と帝都へ集結しつつあるネオゼネバス軍を各個撃破していたガイロス援軍部隊司令部室へ、へリック軍からの援軍の使者が到着した、ガイロス援軍部隊総司令官パウル・ヒンドルフは満面の笑みで使者を迎えた。

「なるほど、明日の帝都攻撃に我が軍のデスザウラーを貸して欲しいと…、うーん、困りましたなぁ、快く引き受けたいのはやまやまですが、デスザウラーを欠いては我が方も戦力が激減し、ネオゼネバスを抑える役割を果たせなくなるかもしれませんぞ…?」

 ヒンドルフ将軍は使者の腹の内を探る様に慎重な返答を繰り返していた。

「それならば心配には及びません、デスザウラーをお貸しくださればネオゼネなど一捻りです! もう貴軍にこれ以上お手を煩わせるのは我らとて心苦しいのです、明日の勝利を決定的にするため、ぜひとも我らにデスザウラーをお貸しください!!」

 腕を組み目を閉じて考え込むヒンドルフ、その時、ヒンドルフの右斜め後方に直立不動の姿勢で侍し、鉄仮面の様な冷徹な表情で2人のやり取りを眺めていた、ヒンドルフの懐刀と呼ばれる参謀のエーリヒ・ルードヴィヒが将軍に何やら耳打ちする。
 ヒンドルフはしばらく深刻な面持ちでルードヴィヒの話に耳を傾けていたが、やがて意を決した様子で、朗らかな笑顔で使者の方に向き直った。

「わかりました、ほかならぬ親愛なる同盟国の頼みです、デスザウラー2機をお貸しいたしましょう、しかし、我が方にも準備というものがございます、明日の早朝にはお届けする故、大船に乗ったつもりでお待ちくだされ!」

「おお! お引き受けくださいますか! さっそく我が総司令官パーソンズにその旨お伝えいたします、これでガイロスとへリックの友好はますます深まる事でしょう、今後も世界平和のためお互い手を取り合ってまいりましょう。」

 まるでスキップでもしそうなほど軽い足取りで帰っていく使者の後姿を見送った後、ヒンドルフはルードヴィヒに尋ねた。

「しかし驚いたな、いつも戦力の消耗には消極的だった貴様があの様な申し出を引き受けるとは…」

「フフ…、同盟国として当然の事でありますよ、ここはデスザウラー2機とは言わず、全軍を持って援軍に参るとしましょう、ただ、急ぐ必要はございません、夜が明けたらゆっくりと出発する事にしましょう、クックック…」

(???)

 そう言うと、怪しい笑みを浮かべつつルードヴィヒは司令部室を出ていくのだった。

帝都攻防

 翌朝、ここは帝都から十数キロ離れたへリック軍野戦陣地。

「えーい! デスザウラーはまだ到着せんのか!!」

「はっ、なんでも途中ネオゼネバスの奇襲を受けデスザウラーの駆動系が故障し、修理に手間取っているとか…、到着は何時になるかわからないとの事です。」

 昨夜約束したガイロスのデスザウラー2機はまだへリック軍陣地に到着していなかった、もう攻撃予定時間を2時間も過ぎている、業を煮やし怒り狂ったパーソンズ司令官に誰も近寄る事も出来ないありさまであった。

「大変です将軍! 背後よりネオゼネバス軍が迫っているとの事、ゾイド戦力約3千!!」

「えーい! もうガイロスなどあてにせん! このままでは勝機を逃してしまう、攻撃開始だ!!」

 ついに最後の決戦になるであろう戦いの火ぶたが切って落とされた、唸りを上げて回転するマグネーザーを突出し猛進する2機のマッドサンダー、その後ろには突破口を開くためのディスペロウ約2千機からなる突撃隊、次にセイスモサウルス撃破の任を受けたライガーゼロフェニックス、レオゲーター約4千機からなる高速戦闘部隊が続く、そして最後尾にはゴジュラスギガ8機からなる対デスザウラー遊撃隊、アロザウラー、スナイプマスター、レオストライカーなどからなる帝都占領部隊約1万が続いた。

 地響きを上げて猛進するへリック軍に、ネオゼネバス軍も35基のゼネバス砲の砲門を一斉に開いて応戦する、始めは凱龍輝の集光パネルによって荷電粒子砲の威力を軽減させダメージは0だったが、やがてエネルギーを吸収しきれなくなり、オーバーヒートを起こして1機、また1機と脱落していく、そして帝都まで約2キロほどの地点まで来たときには護衛はすべて脱落し、2機のマッドサンダーは丸裸の状態であった。
 マッドサンダーのエネルギーも限界に達し、反荷電粒子シールドもゼネバス砲を防ぎ切れなくなり徐々に損害を受け始める、さらにアイアンコング、レッドホーンなどの砲撃も加わり最強の装甲を誇るマッドサンダーも見る見る無残な姿になっていった。

 しかし、ついにマッドサンダーは防壁に到達し分厚いコンクリートの壁をそのマグネーザーによって打ち砕いた、アイアンコングやセイバータイガーなどがこれを止めようと纏わりついたが、マッドサンダーは構わず向きを変えて防壁を崩し続けていった、十数分後、ついに防壁には大穴が開けられたが2機のマッドサンダーは装甲を剥がされコアを潰されて死んでいた、マッドサンダーのパイロットは脱出し、仕込んでいた爆薬の作動スイッチを押す、マッドサンダーは大爆発を起こして纏わりついていた十数体のゾイドもろとも吹き飛んだ。

 直後、混乱に乗じてディスペロウ突撃隊が突撃してくる、ネオゼネバス軍もこれを阻止しようとアイアンコングやレッドホーンなど強靭なゾイドを並べて立ちはだかるが荒れ狂う猛牛の群れを止める事は出来なかった。
 帝国軍の鉄壁の布陣に一瞬穴が生じる、その一瞬の隙を突いて高速戦闘部隊が帝都内へ突入、数分後にはセイスモサウルスとの戦闘が始まったのかゼネバス砲による砲撃がぴたりと止んだ。

 その隙を突いて帝都へ突入しようと占領部隊が迫る、その時、突如近くのビルが倒壊し、中から真紅に染められたデスザウラーが姿を現した、それは、ビルに偽装し待ち構えていた帝国軍総司令官ジーニアス・デルダロスの駆るブラッディーデスザウラーであった。

悪夢の死竜

「あれは…、まさか…。」

「ジーニアスだ…、ジーニアスがデスザウラーで出たー!!」

 突如現れたブラッディーデスザウラーの装甲に描かれた「G」の文字を認めたへリック軍兵士は恐怖のあまり大混乱に陥った、それは単に帝国軍最強ゾイド・デスザウラーが現れたと言うだけでは無い、それを駆るのが帝国軍最強パイロットのジーニアスだったからである、最強と最強の組み合わせ…、まさに悪夢のような敵が立ちはだかったのである。

 -ジーニアス・デルダロス- 彼は今でこそ帝国軍総司令官を務め、最前線に姿を現すことは少なくなったが、かつては黒いデススティンガーを駆り、数多のへリック軍ゾイド・将兵を葬ってきた、この最悪の敵にへリック将兵はすでに怒りを通り越して恐怖しか感じなくなっていた。
 その悪夢が再び目の前に立ちはだかったのだ、恐怖のあまり先頭を切って猛進していた前衛部隊は反転し逃走を開始した、直後、巨大な光の柱が放たれたかと思うと背を向け逃走する十数体のへリック軍ゾイドを飲み込み跡形も無く消し飛ばした…、デスザウラー最強兵装「大口径荷電粒子砲」だ…。

「落ち着けー! 静まれー!! ふ…、ふん! なんだ、たった1機しかいないのか、対デスザウラー遊撃隊前へ出ろ! 奴を仕留めた者は2階級特進だぞ!!」

 ゴルヘックスに乗り込み全軍の指揮を取っていたダグラス・マッカートニーは必死に混乱を鎮めると共にゴジュラスギガ8体からなる対デスザウラー遊撃隊を前衛に出した、「2階級特進」を聞き勇んでデスザウラーに挑みかかるゴジュラスギガ。

 ーゴジュラスギガー これはデスザウラークラスの荷電粒子砲を3発までなら耐えられるエネルギーシールドと、格闘戦ならばデスザウラーとも互角に戦える力を秘めたへリック軍の新たなる象徴として開発されたゾイドである、8対1ではいくらジーニアスの駆るデスザウラーとて一たまりも無いだろう、…と、思われたが…。

 8体のゴジュラスギガが向かって来るのを目にしたデスザウラーはくるりと反転すると背を向けて走り出した、これを逃走と見たギガのパイロットは逃さじと追撃モードに変形して最高速でデスザウラーに迫る、追撃モードのギガの最高速はデスザウラーの2倍にもなる180キロ、瞬く間に追いついたギガはアゴを全開にしてデスザウラーに噛みつきにかかった。
 すると、デスザウラーは急に立ち止まり、巨大な尾を高く振り上げる、最高速で猛進していたギガは避け切る事が出来ずその尾の下に突っ込む形となる、直後、振り下ろされた荷重衝撃テイルによってギガの頭部は粉々に粉砕されていた。
 続いて、デスザウラーは振り向きざまに巨大な腕のクローを水平に薙ぎ払い、突進してきたギガの頭部をコックピットごとえぐり取った、通常であればデスザウラーの攻撃に数回は耐えられギガの超重装甲も、向かい合う両方の力には耐えきれ無かったのだ、これは、追撃モードのギガは直進スピードこそ向上するものの、運動性がダウンし格闘力が半減する事を知り尽くしていたジーニアスの戦術であった。

 2体のギガが瞬く間に倒され、追撃モードで挑むのは危険と察知した残り6体のギガは、とっさに格闘モードへ変形してデスザウラーを取り囲んだ、こうなればもはやデスザウラーに勝ち目はない、…はずであった。

 数分間、両者は攻撃を仕掛けるタイミングを伺い1歩も動けないでいた、凄まじい戦闘に一瞬の静寂が訪れる、その時、この隙を突いて帝都へ侵入しようとしたアロザウラーなど十数体に向かってデスザウラーは荷電粒子砲を放つ、一瞬で消滅する十数体のゾイド、だが、この一瞬の隙を突いて3体のギガが躍りかかった。
 だが次の瞬間、デスザウラーは足元に落ちていたマッドサンダーの2本のマグネーザーを拾い上げると槍の如く突き出す、2体のギガは突然の予想範囲外リーチからの攻撃に反応する事も出来ないままコアを貫かれて崩れ落ちた。
 続いてもう1体のギガが背後に迫りクラッシャーテイルを叩き込む、しかしデスザウラーは1本のマグネーザーを地面に突き刺し、これでテイルによる攻撃を受け止めると同時にもう1本のマグネーザーでコアを貫いた、またしても3体のギガが倒されてしまった。

 超重量の2本のマグネーザーを軽く振り回すデスザウラーの超パワー…、いやそれだけでは無い、敵を知り己を知り尽くしたジーニアスの戦闘センス、勝つためなら何でも利用する機転…、残り3体のギガのパイロットは改めてこの敵が常識をはるかに超えた超エースパイロットなのだと痛感し激しい恐怖を覚えた。

「えーい、何たるザマだ! たった1体に何を手こずっているんだ、貴様らとてギガを与えられたエースであろうが! 慎重にかかれば倒せん相手でも無いだろう!!」

 ギガのパイロットに激を入れるマッカートニー、しかし、それは自分自身への激でもあった、ジーニアスの駆るデスザウラーの予想以上の強さにマッカートニー自身も恐怖心を抑えきる事が出来なかった。
 しかし、この強敵を倒さない限り占領部隊を帝都へ侵入させる事も出来ない、グズグズしていては先に突入させたゼネバス砲鎮圧部隊も孤立し全滅しかねない…、優秀なマッカートニーの頭脳を持ってしてもただ焦燥感ばかりが増していくだけであった。

アレックス初陣

「第3高速戦闘部隊壊滅!」

「ゴジュラスギガ1機沈黙、1機大破!!」

 ここはへリック軍臨時野戦陣地総司令部室、戦場が映されたモニターにかじりつくように見入り戦況を見守っていたパーソンズ総司令官の元には、先ほどから引っ切り無しに被害状況を知らせる伝令が飛び込んでいた、パーソンズは苦虫を噛み潰した様な表情をしていた。
 モニターに映されているのは、残り2機となった虎の子のゴジュラスギガであった、しかも、1機はまるでデスザウラーに赤子の如くもてあそばれ、一方的な攻撃を受けてすでに撃墜寸前であった、残り1機は恐怖のあまり動けないのかその場に立ち尽くしているだけである。

 もしもこのギガが全滅する様な事になれば、ディバイソンやガンブラスターなどの重攻撃ゾイドを欠く今のへリック軍ではデスザウラーに有効打を与える事が出来ない、そうなれば戦力の半分を失う覚悟で強行突撃を命じる以外に無い、パーソンズは祈るような気持ちでギガの奮闘を見守っていた。
 その時、司令部室のドアがノックされ2人の男が姿を現した、それは大統領ロブ・ハーマンとその息子アレックスであった。

「おお大統領閣下、それにアレックス君、この様な所へよく参られました。」

「いや、ついに帝都へ攻撃を開始すると聞いてな、昔の武人としての血が騒いで居ても立っても居られず来てしまったよ、それにしてもなかなか苦戦している様だな、なんなら俺のウルトラザウルスを出してもいいが…」

「いやなに、消えかかるロウソクの最後の輝きに過ぎませんよ、それにガイロスにも援軍を要請しております故、我らの勝利は揺るぎません。」

「所で、ヴォルフを仕留めたと言うのは本当なのか? 俺には奴がこんなに簡単に死ぬとはどうしても思えんのだ、死体の確認はできたのか?」

「は…、それなのですが、何しろ凄まじい爆発でしてレイ・グレックはおろか巻き込まれた数十体のゾイドも全く原型を留めておらず確認は極めて困難な状態です…、しかし、多くの者が爆発直前までレイ機とヴォルフ機が爆心点にいたことを確認しており、死亡は十中八九間違いありません」

「そうか…、ならばいいのだが死体を確認できるまでは不安だな、奴は…、ゼネバスの血筋だけはここで完全に断たねばならない、争いの火種は確実に消さねばならんのだ!!」

「わかりました、そこまで言われるのでしたらヴォルフの死亡が確認されるまでの間、海軍に命じて大陸の周辺を厳重に哨戒させるといたしましょう」

 その時、司令部室のドアを勢いよく開けて伝令が駆け込んできた。

「大変です! ゴジュラスギガがもう1機落とされ、最後の1機も逃走! 帝都突入部隊がデスザウラーにより甚大な被害を受けています!!」

 一同は咄嗟に戦場を映すモニターに目をやる、そこに映し出されていたのは追撃モードの最高速で逃走を図るギガと、デスザウラーに次々と蹴散らされる味方ゾイドの姿であった。

「何たるザマだ、たった1機のデスザウラーも落とせんとは!! あの逃走するギガのパイロットは誰だ、軍法会議にかけて厳罰に処してやる!!!」

 パーソンズは椅子を蹴り飛ばして怒りを露わにする、そこへ、先ほどからハーマンの後ろに立ち2人の話を黙って聞いていた大統領の息子アレックスが進み出た。
 彼はまだ陸軍士官学校に在学中の18歳の少年だが、容姿端麗頭脳明晰運動神経抜群おまけにゾイド操縦技術も卓越し、将来へリックを背負って立つ人物としてすでに軍内でも特別視されるほどの男であった。

「将軍、私があのギガのパイロットと交代してデスザウラーを落として見せます!!」

「なっ! なんですと!? アレックス君の操縦センスは聞き及んでいるが君はまだ実戦経験が無いでは無いか、実戦と訓練は全く違うのですぞ? 将来のへリックを背負って立つ大切なお方をみすみす死なせに行かせるなど絶対に許可出来ん!!」

「大丈夫です、私はギガの操縦訓練も十分に積み、すでに教官との模擬戦闘での勝率は9割なんです! 少なくとも今逃走しているあのパイロットよりはやれます!! いいでしょう父さん!?」

 パーソンズとハーマンはすっかり弱り切ってしばらく腕を組んで考え込んでいたが、ハーマン自身かつて当時大統領の彼の母ルイーズの静止を振り切って最前線に身を投じた事を思い出し、苦笑を浮かべながら頷くのだった。

「…いいだろう、だが少しでも敵わないと思ったらすぐに引き返す事が条件だ」

 その言葉を聞いたアレックスは水を得た魚の如く元気よく司令部室を飛び出し、近くに停まっていたレオストライカーに飛び乗ると全速力で戦場の方へと駆けて行った、これがこの少年の初陣であった。

両雄激突!

「さあ、降りていただけますか?」

 逃走するゴジュラスギガの前に立ちはだかり、アレックスはギガのパイロットにコックピットを開かせた。

「い、嫌だ! こいつは僕の相棒なんだ、誰にも乗らせるものか!! あんな化け物に敵う奴なんていない、こいつの命を守ってやるのが僕の使命なんだ!」

 アレックスはピストルを取出し銃口をパイロットへ向ける。

「僕は100人の仲間を救うためらな赤ん坊だろうと躊躇なく殺せる男ですよ、それに、ギガは無様に逃走するより勇敢に戦って散る事を望んでいる、あなたは軍人には向きません、さっさと故郷へ帰って畑でも耕しているがよかろう。」

 ギガのパイロットは驚いてコックピットから転げ落ちると、そのまま一目散にどこかへ走り去っていった。

「アレックス・ハーマン、ゴジュラスギガ、出ます!!」

 アレックスはギガのキャノピーを閉じると追撃モードに変形し、元来た道を全速力で引き返した。
 十数分後、早くも彼の目にはデスザウラーに蹴散らされる味方の姿が映る、アレックスの怒りの炎は最大限に燃え上がった。

「邪悪なる戦闘狂ジーニアスめ、このアレックスが正義の鉄槌を下してやる!!」

 アレックスのギガが追撃モードで猛進してくるのに気が付いたジーニアスのデスザウラーはギガの方に向き直るとすかさず荷電粒子砲を放った。
 これに対しアレックスは足元に転がっていたギガの残骸を蹴り上げ、これに荷電粒子砲を直撃させると、爆炎の中をそのまま直進する、格闘モードに変形しEシールドを張れば3回まで荷電粒子砲に耐える事は出来る、だが、アレックスの勘が直進を選ばせた。

 損傷を受けながらもシールドも張らず直進し、突如爆炎の中から姿を現したギガに、さすがのジーニアスも驚き態勢を整えるのが一瞬遅れる、そしてギガはがら空きのデスザウラーの胸元へ飛び込むと胸部装甲に噛みついた。
 ギガのクラッシャーファングの力は強く、さすがのデスザウラーの装甲もミシミシと音を立ててヒビが入り始める、デスザウラーはこれを引き離そうと胸部のレーザー機銃を浴びせ、キラークローで何度も殴りつけるが、装甲を見る見るひしゃげさせながらも一向に離そうとしない、そしてついに胸元の装甲が噛み砕かれデスザウラーのコアが露わになる、ギガはとどめを刺そうとハイパーマニピュレーターを叩き込んでコアを潰しに掛かったが、ジーニアスはさすがにそれを許さず荷重衝撃テイルで反撃する、ギガは間一髪でジャンプしてこれをかわした。

 すかさずアレックスも加速クラッシャーテイルで反撃するが、今度はジーニアスがこれを紙一重でかわすとクローで切りかかる、アレックスは左腕でこれを受け、腕を切り飛ばされつつも、捨て身で右腕のマニピュレーターをコアに打ち込もうとする、だが、デスザウラーに腹部を蹴り飛ばされてのけぞる。
 こうして牙と爪と尾を交え、ゴジュラスギガとデスザウラーは十数合と打ち合い、一向に勝負のつく気配を見せなかった、いつしか両軍の将兵も戦いをやめ、この世紀の一騎打ちをかたずをのんで見守っていた…。

 一方、そんな戦いを小高い丘の上から見つめているもう一つの一団があった、ライトニングサイクスに乗ったガイロス軍総司令官ヒンドルフと、ヘルディガンナーに乗った参謀のルードヴィヒであった。

「おい、ルードヴィヒ、早くデスザウラーを援軍に向かわせよう、ネオゼネバスのデスザウラーはあの1機のようだ、あれさえ倒せばこの無益な戦争も終わりだぞ!」

「フゥー、将軍…、将軍はこの戦いを本当に無益なものとするおつもりですか? あのどちらかが倒れた時こそ我らが動く時! デスザウラー2体をもって進撃し弱り切った両軍を叩き潰し、この中央大陸を我がガイロスの手中に収めるのです!!」

「な、何を言っておるのだルードヴィヒ! そんな事をしたらルドルフ殿下の意に背く事になり、仮に成功したとしても我らは銃殺刑に処されてしまうぞ…!?」

「フ、銃殺刑…、いいではありませんか、ガイロスを世界の頂点に君臨させ世界を真の平和に導くことが出来るのなら、私は喜んでその刑を受けましょう、それに…、今はシュバルツなんぞにそそのかされ殿下もかりそめの平和などを謳っておられるが、殿下も確かに覇王ガイロスの血を引いておられるお方、強大な力を手にすれば必ずや目をお覚ましくださるだろう」

「そ…、そんなにうまくいくのか…?」

「フン、私がこれまで間違いを犯したことがありましたか? 将軍はこれまで通り私の言に従っていればいいのです、そうすれば将軍を世界の英雄にして見せましょうぞ、それでは私は一足先に特殊部隊を率いて帝都へ侵入します、将軍は頃合いを見計らって全軍を持って帝都へ攻め込んでください」

 そう言うと、青ざめたヒンドルフを置いてルードヴィヒは配下のヘルディガンナー部隊を率いて丘を下っていくのだった。

勇者アレックス誕生

 すでに両雄の激突から数十分が経過していたが、ゴジュラスギガとデスザウラーは互いにボロボロになりながらもなお激しく打ち合っていた。

(ふ…、まさかこの俺がたった1機にここまで消耗させられるとはな…、あわよくば俺一人でへリック軍を壊滅させてやろうかとも思ったが無理だったようだ、まさかへリック軍にこれほどのゾイド乗りがいたとは…)

 デスザウラーのコックピット内、パイロットのジーニアス・デルダロスはかすかに笑みを浮かべていた。

(馬鹿が、俺は何を喜んでいるのだ、閣下、申し訳ありません、私はここまでのようです、だが、あのギガだけは倒して見せる! ズィグナー殿、閣下を頼んだぞ!!)

 すでに5発以上も荷電粒子砲を放っていたデスザウラーのエネルギーは限界に達していたが、デスザウラーはジーニアスの想いに答えるかのように、これまでで最大出力の荷電粒子砲を放った。
 あまりの至近距離にシールドを張る暇さえ無かったが、アレックスは天性の超反応によりかろうじて直撃だけは避けられた、だが、右腕もろとも右胸部をえぐり取られ、コアがむき出しになり絶体絶命のピンチに陥った。

 そこへとどめを刺そうとデスザウラーはクローを振りかざして突進してくる、アレックスはデスザウラーの荷電粒子砲にも匹敵する威力だが、ギガの命と引き換えになる最終兵装「ゾイドコア砲」の発射スイッチに手を掛ける。

「これだけの敵に使うんだ、ギガも許してくれるよな…」

 アレックスがまさにスイッチを押そうとしたその瞬間、突然無線機から攻撃部隊司令官マッカートニーの声が聞こえてきた。

「アレックス! 伏せろ!!」

 アレックスは状況も飲み込めないまま咄嗟にギガの身をかがませた、直後、はるか後方に配備された数十機のスナイプマスターのスナイパーライフルが一斉に火を噴き、デスザウラーに次々と被弾する、その内の1発がついにむき出しになっていたデスザウラーのコアに直撃した。
 デスザウラーは尚も破壊本能に従いギガにとどめを刺そうと5、6歩ほど歩を進めたが、ついに操り人形の糸が切れたように崩れ落ちた。

「オォォォォォォォォォォーーーーーーー!!!!」

「やったぁ! ついにあの怪物が倒れたぞ!! 勇者アレックスばんざーい!!」

 この戦いをかたずを飲んで見守っていたへリック軍将兵は一斉に歓声を上げた、対するネオゼネバス軍は最後の砦を崩され動揺の色を隠せなかった。

「今だ! 全軍帝都へ突入せよ!! ネオゼネバスを一気に叩き潰すのだぁ!!」

 マッカートニーの号令と共にへリック軍は雪崩を打って帝都へ突入する、統制を失った帝国軍はなす術も無く崩された。

 数分後、倒れたデスザウラーのコックピットハッチを手動でこじ開け、ワインボトルを手にしたジーニアスが姿を現した、ジーニアスはデスザウラーの頭部の上に立ちあたりを見渡す。
 周囲にはすでに両軍の姿は無く、広大な荒野に無数のゾイドの残骸が転がるばかりであった、そして、帝都の方を見ると至る所から黒煙が上がっている…。

 ジーニアスはワインを一口飲むと、デスザウラーの装甲でボトルを叩き割った、装甲を伝ったワインがデスザウラーの口の中へ流れ込む。

「終わったか…、だが、最後にあれだけの敵と戦えたのは武人の誉よ、お前もそうだろう? 破滅の魔獣よ」

「コォォォーー…」

 ジーニアスの問いかけに、まだ息のあったデスザウラーは心なしかうれしそうに聞こえる唸りを挙げた。

 その時、十数メートル離れた所に同じく地に伏せていたゴジュラスギガのキャノピーが開き、アレックス・ハーマンが姿を現す、先ほどまで死闘を繰り広げていた両者が、初めて直接向き合った瞬間だった。

「ネオゼネバス帝国軍総司令官、ジーニアス・デルダロス!!」

 そう名乗るとジーニアスは静かに敬礼の姿勢を取った。

「へリック陸軍伍長、アレックス・ハーマンだ!!」

 アレックスも名乗りを上げると同じく敬礼の姿勢を取る。

「驚いたな、こんなに若いパイロットだったとは…、やや動きに無駄が見られたが見事な武であった、鍛練すれば貴様はまだまだ強くなれる」

「ご教示痛み入ります、私も若輩ながら帝国軍、…いや、この星最強のゾイド乗りと戦えた事を誇りに思います!!」

 両者はしばらく見つめあっていたが、やがてジーニアスは懐から短剣を取り出した。

「ならば最後にもう一つ教示してやろう、よーく見ておくがいい! これがゼネバス軍人の散り様だぁ!!」

 そう叫ぶとジーニアスは自らの体に短剣を突き刺し倒れた、アレックスは敬礼の姿勢を崩さず、黙ってそれを見つめていた。
 その時、突然ギガの無線機から声が聞こえてくる。

「ア…、アレックス! ギガはまだ動けるか!? 至急本部へ来てくれ、ガイロスが裏切…、ギャァァァーーー!!!」

 アレックスは咄嗟にへリック軍野戦陣地のある方向に目をやった、そこには燃え盛る炎をバックに、2体の巨大な影を中心に据え猛進してくる、無数の黒い軍団の姿があった…!

ガイロス反乱

 巨大な2体の影はどんどん近づいてくる、それはガイロス帝国のデスザウラーであった、だが、致命傷を負ったギガ1機ではもはやどうする事も出来ない、アレックスは悔しさに唇をかみしめた。

 この光景をジーニアスも薄れゆく意識の中で見ていた、すると、ジーニアスは飛び出した臓物を手で押し戻すと、デスザウラーのコックピットまで這っていき無線機を手に取った。

「き…、聞こえるかガルド、ガイロスがへリックに対して反乱を起こした、ガイロスだけには絶対に中央大陸を渡すわけにはいかん! 奴らとは共存共栄の道は無い、奴らに中央大陸を取られれば世界の終りだ…!! 俺はもう終わりだがただでは死なん! ではガルド、先に地獄で待っているぞ」

 そういい終わるとジーニアスは今度はむき出しになったデスザウラーのコアの所まで這って行った。

「フ…、フフ…、デスザウラーよ、まだ生きているんだろう? またとない好敵手が現れたぞ、ゼネバスのデスザウラーの強さを奴らに見せつけてやるのだ! どうした化け物、お前の力はその程度なのか、俺はまだやれるぞ! さあ立ち上がって見せろ化け物!!!」

 そう言うとジーニアスはコアに抱きついた、すると、コアが突如マグマの様に真っ赤に発光する、それは太陽ほどの高温で、ジーニアスの体を見る見る溶かしていく…、そして、ジーニアスの生体エネルギーを取り込んだブラッディーデスザウラーは再び立ち上がった、その時、ガイロスのデスザウラーはすでに数百メートルほどの距離に迫っていた。

 ブラッディーデスザウラーが完全に沈黙したと思っていたガイロス軍は大混乱に陥いった、そして、ブラッディーは一度力強く咆哮すると、1機のガイロスデスザウラーに向けて荷電粒子砲を放つ、突然の出来事に回避行動も取れず直撃を受けのけぞるデスザウラー、だが、これまでであった、今度こそ力尽きたブラッディーデスザウラーは直立したまま事切れていた。

「ジーニアス、なぜだ…!? 我らへリックに復讐する事がネオゼネバスの最大の目的ではないのか…?、なぜそこまでしてガイロスを…? ネオゼネバス…、奴らとはよく話し合えば分り会えたのかもしれん、だが! ガイロスこそは真に倒さなければならない敵だ!!」

 アレックスはギガのゾイドコア砲のスイッチを押した、32基の背びれが一斉に展開し32の青白い光の帯がもう1体の無傷のデスザウラーを襲う、凄まじい爆炎に包まれるデスザウラー、だが、超重装甲に身を包んだデスザウラーは満身創痍の状態ながら未だ倒れる事は無かった。アレックスは死を覚悟した。

 その時、突如2機のデスザウラーの周囲に砲弾がさく裂し、そのうちの数発が直撃、装甲が破損していたデスザウラーはついに致命傷を負って倒れた。
 それはガイロスの襲撃からからくも逃れたハーマン大統領自らが操縦するウルトラザウルスからの砲撃であった。

 虎の子のデスザウラーを早くも失い、ガイロス軍総司令官ヒンドルフの顔は青ざめていた。

(馬鹿な! うかつだった、こんな所でデスザウラーを失うとは! だがもう引くことはできん、こうなったら全力を持って帝都を陥落させるのみだ!)

 ヒンドルフ率いるガイロス軍は手痛い損害を受けつつも帝都へ突入、こうして帝都内ではへリック、ネオゼネバス、ガイロスの三つ巴の大乱戦が発生した。

 一方その頃、ヘルディガンナー30機からなる特殊部隊を率いて一足先に帝都へ侵入していたルードヴィヒは、ネオゼネバスのゾイド研究施設を襲撃していた。
 その彼の元へ2機のデスザウラーが早くも倒れたとの知らせが届く。

「チッ! ヒンドルフめ、詰めが甘いな、急げ! こうなったらあれだけでも回収するのだ!」

 ルードヴィヒはある部屋の前に来ると厳重にロックがかけられた扉を手榴弾にて破壊して内部へ突入した、そこはこれまでとは雰囲気が異なる部屋だった、中では研究員達が必死に書類を処分している最中だった。

「撃て」

 ルードヴィヒの号令にガイロス兵が一斉に銃を乱射する、研究員達は鮮血にまみれて倒れた。
 その部屋をよく見ると、中央に培養液に浸かったゾイドコアがある、ルードヴィヒはほくそ笑んだ。

「あった…! 真オーガノイドだ! これさえあれば…!!」

「大佐! ダークスパイナーとデススティンガーの設計データも無事でした!! 残念ながらセイスモサウルスなどの最新ゾイドのデータは廃棄されてしまったようですが…」

「フ…、 その2機のデータさえあれば十分だ! もうゼネバスのガラクタなど必要ない! 今後我が軍は優秀なるガイロス設計ゾイドで固め、再びかつての無敵暗黒軍を再建するのだ! 中央大陸強奪は失敗したがこれさえあれば何とでもなる!」

 ルードヴィヒは高笑いを残すと何処かへ姿をくらました。

ネオゼネバスの最後

「ガイロスがへリックを裏切った」

 ジーニアスの最後の通信を受け取った参謀長のガルド・クーガルは今後の軍の動向について考えあぐねていた。ガルドもガイロスで生まれ育った人間だ、あの国にいた頃、摂政プロイツェンの天才的手腕により上層部こそゼネバス系が掌握していたが、民衆の間では陰でゼネバス人に対する虐殺暴行が氾濫し人間扱いされていない事を目の当たりにしてきた。ガイロス人の奥底には「自分たちこそが最優秀民族であり、他の劣等民族は排除するべき」と言う酷く暴力的で危険な思想を抱いている事を知ったのだ。

ーへリックに降伏してでも共闘してガイロスを倒せー

 直接は口にしなかったが、いや、立場上出来なかったのであろうがジーニアスはこう言いたかったはずだ。
 ガイロスがこの資源豊富な中央大陸を手中に収めれば世界はどうなるかは火を見るより明らか、いや、へリックとてゼネバス人を野蛮な劣等民族と見下し奴隷などが横行しているが無駄に排除しようとしないだけ遥かにマシだ。

 ヴォルフとその家臣たちは、そんな世界で不遇を買うゼネバス人を解放し、民族差別の無い真に平等な国を建設するために戦ってきた、だが、上層部の真意はともかく、末端の将兵の中には「へリックへの復讐」「ゼネバス人による世界征服」を目的に集まった者も多い、今更へリックに降伏するなどとても無理だ。

(だが閣下なら…)

 ガルドは思った、ネオゼネバス軍将兵の思惑には大小の違いはあれど、一つだけ何物にも勝る共通する信念がある、「ムーロア家への絶対の忠誠」だ。
 ムーロア家とはそれすなわち皇帝ヴォルフの事である、ネオゼネバス将兵はヴォルフが右向けと言えば右を向き、左向けと言えば左を向き、死ねと言えば何の疑いも無く命を絶つ。それは単に形だけの忠誠心では無かった、ヴォルフの優れた人格が彼らをその気にさせるのだ。

「フッ…、ついに私の出番と言う訳か、閣下、誠に恐縮ながらしばらくそのご威光をお借りいたします」

 地下シェルターにある狭い参謀長室で一人静かに笑みを浮かべると、ガルドは足早に格納庫へと向かっていった。

 その時、帝都内では3勢力入り乱れての大乱戦が行われており、ネオゼネバス軍は帝都最深部に戦力を集中して徹底抗戦の構えを敷いていた。

 そして、その軍勢をかき分けて1機のゾイドが姿を現す、帝国軍将兵の視線は一気にそこへ注がれる。それは紛れも無く皇帝専用機のエンブレムを付けた真紅のエナジーライガーであった。

 一瞬にして静まり返った軍勢の中心で、エナジーライガーのコックピットハッチがおもむろに開かれ、中から皇帝ヴォルフに扮したガルド・クーガルが姿を現した。
 ガルドはムーロア家の縁戚であり、容姿がヴォルフに酷似していた事からプロイツェンにより有事の際には影武者を務めるよう命じられた男である。将兵の目には紛う事無き皇帝ヴォルフの姿に映った。

「皇帝閣下だ、閣下が生きておられた!!」

「おお! やはり閣下は神に選ばれたお方、閣下は不死身だ、ネオゼネバスも不滅なんだ!!」

「閣下さえおられれば我らは無敵だ! へリックだろうがガイロスだろうが来て見やがれ!!!」

 皇帝の姿を認めると将兵は一斉に歓声を上げた、沈痛な空気に包まれていた戦場も一瞬にして活気に包まれる。ガルドは敢然とした態度を取りながら改めてヴォルフの偉大さを思い知っていた。
 ガルドが右腕を高々と上げると兵たちは静まり返る、するとガルドはおもむろに口を開いた。

「諸君! 我が親愛なる帝国臣民諸君! 今日まで良くぞ苦しい戦いに耐えてくれた、だが、事ここに至っては勢力の挽回はいかんともし難い…、これより我が軍はへリックに降伏し、奴らと共にガイロスを討つ!! 諸君もガイロス人がどんな思想を抱いているか知っているはずだ、奴らにこの中央大陸を取られればゼネバス人は愚か全世界が地獄と化すだろう。へリックに降伏する事など諸君にとって死よりも耐えがたい事なのは余も十分承知している、だが! 我らがこれまで戦って来た真の目的である世界平和のため、どうか余の最後の願いを聞いて堪えてほしい、怒りと憎しみが抑えきれぬのなら余がこの一身に引き受けよう」

 帝国将兵は再び静まり返り、至る所からすすり泣く声が聞こえてきた。ガルドは言葉を続ける。

「ネオゼネバス帝国は今日で終わりだ、だが、我らのこれまでの戦いは決して無駄では無かった、諸君らの有能さと平和を愛する健全なる精神は必ずやへリック人に伝わったはずだ、悪魔のガイロス人とは無理でも、へリック人となら必ずや分かり合える日が来ると信じている! 余はこれより単身へリック大統領の元へ赴き諸君の想いを大統領に伝えよう…、ゼネバスの血筋は途絶えようともそんな事は取るに足らない事、真に後世に残すべきは諸君らの高貴なる精神なのだ。ではさらばだ諸君、余の最後の命令だと思ってここは耐え、決して暴動などを起こしてこれまで散って行った同胞の精神を汚す事の無いよう切に願う」

 そう告げ終わるとガルドはコックピットハッチを閉じ、エナジーライガーのエナジーチャージャーを作動させ砲弾飛び交う戦場に単騎突入していくのだった。その後姿を帝国軍将兵は涙にむせびながらも誰一人騒ぎ立てる事無く見送っていた、それは悲しいまでの皇帝への忠誠心の現れなのであった。

ガルド特攻

 ガルドのエナジーライガーは全速力の660キロで駆けた、後方にあるへリック軍本陣へと向かってただひたすら駆けた。
 途中これを阻もうとへリックやガイロスのゾイドが立ちはだかったが、エナジーはひたすら直進しそれらをはね飛ばした、ガルドにはこのエナジーライガーを制御できるだけの力量は無く、必然的にこうならざるを得なかったのだ。エナジーは幾多のゾイドと激突し見る見る機体は損壊していった。

 しかし、まさかこれが皇帝機であるなどと思う者は無く、ただ高速で直進するだけのこの機体を意識して落とそうとする者も無く、やがてエナジーは乱戦の渦から抜け出し、帝都外へ出る事に成功した。地平線の彼方にはウルトラザウルスの巨大な影が肉眼でもはっきりと確認できる、おそらくへリック軍本陣とみて間違いない、ガルドはまっすぐその方向へと向かっていった。

 一方その頃、ガイロス軍の奇襲により壊滅し、臨時に再構築したへリック軍本陣はすでにこちらへ単騎で駆けてくるゾイドに気づいており、数十機のスナイプマスターを射撃体勢にして待ち構えていた。そして、エナジーがその射程圏内へ入った時、その砲口が一斉に火を噴く。常識をはるかに超えた超高速のエナジーとて、ただ直進するのみでは単なる巨大な的でしかない、エナジーは次々と被弾し、ついには右前脚を吹き飛ばされて沈黙した。しかし、その時にはすでに本陣数百メートルの距離まで迫っていた。

 やがてエナジーは銃を向けたへリック兵によって囲まれた、へリック兵はじりじりとその包囲を縮める。その時、エナジーのコックピットが開かれ、中から白旗を掲げたガルドが姿を現し叫んだ。

「へリック軍よ、大統領もしくは総司令官に合わせてもらいたい、我はネオゼネバス帝国皇帝、ヴォルフ・ムーロアである!!」

 ヴォルフ・ムーロア、思いもしない人物の名を耳にしたへリック兵達は驚きどよめいた。やがてその兵達をかき分け大統領ロブ・ハーマンと総司令官ジョン・パーソンズが姿を現した。

「ヴォルフだと? ふん! 皇帝を狂信的に崇めるネオゼネの奴らがその皇帝をたった一人で寄こす訳がない、大統領、これは何かの罠ですぞ? さっさとひっ捕らえて拷問にかけてみましょう」

 ハーマンはパーソンズのそんな言葉など耳に入らないかのように、ライオンが獲物を見定めるかのような鋭い目つきでひたすらガルドをにらみつけていた。そして数分間お互いに睨み合っていたが、やがてガルドの高貴なるオーラと強い決意を秘めた瞳から皇帝本人であると認めたハーマンはおもむろに口を開いた。

「ヴォルフ・ムーロアよ、私がへリック大統領、ロブ・ハーマンである! 国家元首同士対等に話し合おうではないか、要件は何か!」

「お心遣い…、痛み入る。では単刀直入に話そう、我が軍はへリックに降伏を申し入れる。もしこれを受け入れ我が軍への攻撃を止めるなら、我が方も即座に反撃を止めへリックの軍門に下るであろう」

「降伏…、だと…? これまで何度も降伏勧告を跳ね除けてきた貴様らが今更どういう風の吹き回しだ? 貴様らの目的は我らへの復讐だったはず…、最後の一兵になろうとも降伏などありえんと思っていたが…」

「…違うな、確かに我らはへリックを憎んでいた、だが、それはかつて滅ぼされた事に対する下らぬ復讐心などでは無い! 我らゼネバス人を野蛮な劣等民族として蔑むへリックやガイロスの支配から解放し、真に平等で平和な世を作ろうと戦って来たのだ! 確かに今でも我らのへリックへの憎しみは消えない、だが! 平和を何よりも望む我らにとって邪悪なるガイロスにこの中央大陸を渡すよりは、へリックに降伏してでも共闘しガイロスをこの大陸より排除する事を望むのである!!」

 ガルドの話を黙って聞いていたハーマンだったが、その言葉を聞いた瞬間顔色を変えて怒鳴った。

「黙れ! 見損なったぞヴォルフ! 貴様がその様なくだらない出まかせを言う人間だったとはな!! 武力による侵略をしてきた貴様らが平和を語るか、笑わせるな!! これまで貴様らはどれだけの命を奪ってきたと思っている! これで読めたぞ、降伏すると見せて我らを利用し、ガイロスが弱った所で今度は我らともども滅ぼすつもりなのだろう。俺はそんなに甘くは無いぞ! 貴様はここで射殺し、ガイロスともども二度と立ち上がれぬよう徹底的に叩きのめしてくれるわ!!」

 ハーマンが右腕を挙げると兵達は一斉に銃の照準をガルドに合わせて構えた、そしてその腕が振り下ろされようとしたその時、突如どこかから叫び声が聞こえてきた。

「待ってください!!」

 やがて兵達をかき分けその声の主が姿を現す、それは、腕を抑えながら足を引きずり歩く痛々しい姿をしたアレックスであった。彼はあの後、ガイロス軍の総攻撃を受けたがかろうじて逃げ延び、自分で乗り捨てたレオストライカーに乗ってこうして本陣にたどり着いた直後であった。

「おお、生きていたか! アレックス! よかった…」

「父さん、僕はヴォルフの言葉は真実だと思います、僕は見たんです、帝国軍総司令官、ジーニアス・デルダロスの最後を! 彼は最後の力を振り絞って命を捨ててガイロスのデスザウラーを攻撃しました、僕にとどめを刺さずガイロスを攻撃したんです! それも命を捨てて瀕死のデスザウラーで…、あんな事は強く健全なる信念が無ければできません、優れたゾイド乗りであった父さんならわかるでしょう!?」

「何!? ジーニアスがガイロスのデスザウラーを…? だからあの時ウルトラザウルスの砲撃で簡単に落とせたのか…、だがそれだけで奴らを信用する事は出来ん、お前とて奴らがこれまでしてきた事を知っているだろう、…まあ、子供のお前にはわからんかもな」

「わかってないのは父さんの方だ、その意地っ張りな所が父さんの最大の欠点なんだ! 確かに戦力では我が方が圧倒的ですが、ネオゼネバスとガイロスに挟まれては一たまりもありません。ここは少しでも可能性の高い方に賭けるのが得策ではありませんか、それにネオゼネバスは決して裏切りません、僕にはわかります、奴らはそんな卑怯な事をするくらいなら死を選ぶ連中です、僕が命を懸けて保証しましょう!」

 目をつぶり黙って息子の話に耳を傾けていたハーマンだったが、しばらく考えこんでいる様子を見せたのち静かに目を開け語りだした。

「…いいだろう、ネオゼネバス軍の降伏を受け入れる、だがヴォルフ! 貴様だけは生かしておくわけにはいかん、争いの火種はここで完全に断たねばならんのだ、…貴様の望む平和の為にはな」

「無論そのつもりだ、この度の敗戦の責任はすべて私にある、せめて死を持って散って行った同胞達に詫びよう、だが! 貴様らの手にだけはかからん!!」

 そう言うとガルドはまとっていたマントをはぎ取った、その体にはダイナマイトが巻きつけられていた。

「ロブ・ハーマン! そこの男が言った通り我らは絶対に裏切りはしない、だが、それは下らぬ民族差別を捨て、平等で平和な国を作ってこそだ! もし愚かな過ちを繰り返そうと言うのなら、必ずや第2第3のネオゼネバスが現れて貴様らを滅ぼすであろう! 約束しろ、平和で平等な国を作り上げると!!」

「…約束しよう」

 その返事を聞くと、ガルドは静かな笑みを浮かべたまま体を銃で撃ちぬいた、同時にダイナマイトが爆発しガルドの体は木端微塵に砕け散った。

「パーソンズ、すぐにネオゼネバスへの攻撃を中止し、降伏受け入れの使者を送れ! 後はガイロスを全力を持って排除するのみだ!!」

(ふ…、まさかアレックスに諭される事になろうとはな、うれしいやら悲しいやら…、ヴォルフ、貴様の志はこのロブ・ハーマンが受け継いだぞ、必ずや平等で平和な国を作り上げてみせよう!)

 ハーマンは新たなる決意を胸に拳を握りしめ空を仰いだ。こうして長きに渡った因縁の戦いは、一応の決着を見たのである。

戦争は終わった

 レオゲーターがジェノザウラーを翻弄しアイアンコングがハンマーナックルを叩き込む。

 無数のフライシザースがライトニングサイクスにまとわりつき動きを止め、そこをスナイプマスターがライフルで仕留める。

 へリック軍はネオゼネバス軍の降伏を受け入れ、ネオゼネバス将兵は誰一人それに逆らうことなくその傘下に下った。
 そして、つい先ほどまで憎しみ合って戦っていた両者は今肩を並べて戦っている。中央大陸を、いや、世界の平和と言うたった一つの目的の元に数々の因縁を超えて両者は結託したのである。

「ひ、退けーーー!!」

 へリック・ネオゼネバス連合軍の戦力はガイロス軍を圧倒し、ガイロス軍総司令官パウル・ヒンドルフは勝機の見込みなしと見て撤退を命じる。連合軍はこれを逃さじと徹底した追撃を行いガイロス軍はほぼ全滅に陥り、ヒンドルフは僅かの側近だけを連れて潜水艦に乗って本国へと逃げ帰っていった。

 そして帝都ではネオゼネバスの国旗が降ろされ、約8年ぶりにへリックの国旗が翻った。ここに西方大陸でのへリック・ガイロスの小競り合いより始まり、実に十数年にも及んだ戦乱の世が幕を閉じたのである。

 へリック軍将兵や民衆は風になびくへリックの国旗を見て歓声を上げ抱擁し合った。旧ネオゼネバス将兵は敗戦によるショックや今後の不安にうなだれていたが、やがて彼らの元にビールを手にしたへリック人が恐る恐る歩み寄った。

「一杯…、どうだい…? 中央大陸が、いや、世界をガイロスの魔の手から救えたのは君たちのおかげだ、我らが同じ立場だったら同じようにできたかわからない…、君たちの因縁を超えた平和を望む信念に我らは感動したのだ」

「…ふっ、頂くとしよう…、我らもへリックの粘り強さには脱帽した、もう二度と戦いたくないものだな…」

 両者はぎこちない笑顔を見せながらビールを飲み干した。
 少し離れた所からこの様子を眺めていたアレックスは嬉しいとも悲しいとも言えない微妙な表情を浮かべていた。
 アレックスは思った、なぜ話し合えば簡単に分かり合えそうな相手と戦わなくてはならなかったのか。共通の敵がいなくては分かり合う事は出来ないのか。

「人は戦う事でしか前に進めないと言うのか…」

 そうつぶやくとアレックスは道端に横たわる死体を悲しげな目で見つめた。アレックスだけではない、喜びに酔いしれる人々も、戦争終結の喜びと共に、途方もない虚しさを感じているのだった。

 だが、戦争は終わったのだ、へリック人とゼネバス人も共存の兆しを見せている、へリックにとっての夜明けがようやく訪れたのである。

生きていた皇帝

 ヴォルフは生きていた、いや、自分でも生きていることが信じられないが現に今こうして見知らぬ深い森の中を生きてさまよっている。

 あの時…、ヴォルフのエナジーライガーはレイのゼロファルコンのバスタークローに貫かれて死んだ。しかし、外部動力のエナジーチャージャーは生きており、制御しきれなくなったエネルギーが暴走、エナジーライガーは周囲数キロを巻き込む可能性のある危険な爆弾と化したのだ。

 これが爆発すれば敵味方ひしめくこの状況での被害は計り知れない、もうこれ以上死者を増やすことを望まないヴォルフは無意識の内にこれを少しでも遠くへやろうと、動ける屍と化したエナジーライガーをノロノロとした足取りで進ませた。
 だが、この速度ではこの英雄的行動も全くの気休めにしかならない。この行動に心打たれたレイは、ジェットファルコンは元々エナジーライガーとの合体を想定に開発されたブロックスであり、バスタークローはエナジーチャージャーのエネルギーを打ち出すビーム砲となっている事を思い出し、エナジーライガーの前に立ちはだかってヴォルフにその事を告げた。
 その直後、2人は言葉も交わさずゾイドから飛び降り、エナジーライガーとジェットファルコンを連結させ、暴走するエネルギーを天空へ解き放つ事に成功した。

 しかし、それでもエネルギーを放出し切れず、大爆発を回避する事は出来なかった。真っ赤に焼けただれ爆発寸前のエナジーライガーを見て、ヴォルフは死を覚悟して目を閉じた。その時、ヴォルフの腕を強くつかんで引っ張る者があった。レイだ。レイはヴォルフを自分のライガーゼロのコックピットへ引っ張り込むと、ファルコンアーマーを脱ぎ捨て全速力で駆けだした。

 その直後、エナジーライガーは大爆発を起こし、レイのゼロもすさまじい爆風に巻き込まれたはずだった。普通なら死んでいておかしくない状況ながら2人は生きていた。それはライガーゼロがスペック以上の高速を出さない限り不可能な事だ、エースパイロット、その中でもさらに傑出したスーパーエースの中には、時にゾイドのスペックを何倍にも引き上げる事があると言うが…。
 宿敵レイに助けられた事と合わせ、2つの奇跡によりヴォルフはこうして命をつなぐ事が出来たのであった。

 ヴォルフを助けたレイは、ヴォルフ抹殺の命を受けていながら軍には戻らず、近くの密林に入り込んでそこでヴォルフを解放し、そのまま何も言わず深い森の中へ消えて行ったのだった。

(我が軍はどうなった…? まだ持ちこたえてくれているだろうか…、戦況が知りたい! 早く戻ってデスザウラーで出て皆を勇気づけてあげたい…!!)

 それからヴォルフは極度の疲労も忘れ、ひたすら密林の中をさまよっていた。その時、遠くから微かにゾイドの駆ける様な音が聞こえてきた。ヴォルフは近くの大木に身を隠す、何とそれはヘルキャットであった。

「助かった! 友軍か!!」

 ヴォルフは喜び勇んでそのヘルキャットの元へ駆け寄る、するとそのコックピットが開かれ中からヴォルフの最も信頼する人物が姿を現した、皇帝親衛隊長ズィグナー・フォイアーであった。

「閣下…、良くぞご無事で…! このズィグナー、閣下は必ずや生きていると信じておりましたぞ!」

「おお! ズィグナーか! こんな所で巡り合うことが出来るとは…、これは3度目の奇跡だ、やはり我らはまだ神に見放されてはいなかったのだ! すぐに戻って皆を元気づけたい、さあ、早く俺を帝都へ連れて行ってくれ!!」

「それはなりません閣下…、先ほど帝都は陥落、我が軍はへリックに降伏したとの通信が入りました…」

「馬鹿…、な…、我が軍が…、ネオゼネバス帝国が…、負けた…」

 がっくりと膝を付くヴォルフ、ズィグナーはゾイドから飛び降りその体を支えた。

「しっかりしてください閣下、閣下がいる限りゼネバスは滅びません、この先に脱出用ウオディックが用意してあります。閣下はそれにてこの大陸を脱出し、東方の島国を占拠したシュテルマーにかくまってもらうのです!」

「馬鹿を言うなぁ!! 帝国を滅ぼした上、反逆者のシュテルマーに許しを乞えだと!? そんな事をしたら地下にいる父上や同胞たちに顔向けが出来ん! これ以上俺に恥をかかせないでくれ、俺はここで死ぬ、お前は俺の死体を地中深くに埋めるんだ、これが皇帝としての俺の最後の命令だ」

 そう言うとヴォルフは短剣を取出し喉元に突き付けた。

「馬鹿者ぉ!!」

 ズィグナーは咄嗟にヴォルフを平手打ちにして殴り倒した。

「閣下はジーニアス殿やガルド殿の死を無駄になさるおつもりか! 彼らは閣下の命をお救いしたいと、ただその一心でその命を捧げられたのですぞ!? もう閣下の命は閣下だけのものでは無いのですぞ!!」

「あのジーニアスとガルドが死んだ…!? すまぬ…、あれだけ優れた臣下を持ちながら俺の力が及ばないばかりに…、だが、これで俺は一人になってしまった…、仮に生き延びたとしてもこれではもはや志を成し遂げることなどできないではないか…」

「何を弱気な、閣下らしくもありませんぞ、閣下には私が付いております、それに、閣下の威光をもってすれば、どのような地であれ、すぐにまた優れた臣が集う事でしょう! さあ、行きましょう、生き延びる事こそ散って行った同胞達への最高の供養となるのです!!」

 その言葉を聞いて、ヴォルフはうなだれたまま無言で頷き、ズィグナーに導かれるままヘルキャットの後部座席に収まった。

皇帝脱出

 皇帝を乗せたズィグナーのヘルキャットは真っ直ぐ脱出用ウオディックの停泊地点へ進んでいた。その時、突如コックピット内に警報音が鳴り響き、ヘルキャットの高性能レーダーパネルが後方より高速で接近する敵機の機影を映し出していた。それはネオゼネバスの残党に降伏を促しながら哨戒していた3機のディメトロプテラであった。

「マズい、残党狩りか! このままでは脱出地点が見つかってしまう!」

 ズィグナーは突如ヘルキャットの歩を止め、コックピットハッチを開くと、その怪力によりヴォルフを外へ投げ出した。突然の出来事にヴォルフはあっけにとられ、地面にへたり込んだままズィグナーを見上げた。

「閣下、このまま真っ直ぐお進みください、そこに脱出用ウオディックが停泊しています、私はそれまでの間敵の目を引き付けて見せましょう」

「馬鹿を言うな! それでは俺は本当に一人になってしまうでは無いか! さっきお前は俺に付いてきてくれると言ったでは無いか!!」

「閣下…、閣下が生きて志を捨てない限り、私もジーニアス殿もガルド殿も閣下の中で生き続ける事が出来るのです、幼少の頃より閣下のお側に使え、今こうして最大の危機に閣下の身代わりとして死ねる事はこのズィグナー最大の名誉です。では閣下、さらば…!」

 そう言うとズィグナーはハッチを閉め元来た道を引き返して行った。

「ズィグナーァァァァーーーー!!!!」

 ズィグナー・フォイアー…、彼はゾイド操縦のみならず、肉体的武勇にも優れた為、ギュンター・プロイツェンより幼少のヴォルフの身辺警護を任され、以来20数年にも渡って彼を幾多の危機から救って来た男であった。
 また、多忙であった父ギュンターに代わり、時には優しく、時には厳しくヴォルフの精神を支えて来た、彼にとっては父親の様な存在であったのだ。

 しばらくすると遠くで銃撃戦をする音が聞こえ、やがて大爆発の音が聞こえたかと思うと再びあたりは静寂に包まれた。どうやら哨戒機は向きを変えどこかへ飛び去ったようであった。
 放心状態となりその場にうなだれていたヴォルフはやがて力なく立ち上がると、ふらふらと脱出地点へ向かって歩き出した、彼を動かしたのはズィグナーの最後の言葉であった。

 そのまましばらく歩くとやがて開けた海岸へたどり着いた、そこには親衛隊員が待っており、ヴォルフの姿を見つけるとその中の1人が駆け寄ってきた。

「おお閣下! 良くぞご無事で…、我らは閣下が生きていると信じておりました、ところでズィグナー殿や他の隊員とはお会いしませんでしたか…?」

 無言でうつむくヴォルフの姿にズィグナー達の運命を察した隊員は、黙ったままヴォルフを脱出用ウオディックへと導いた、そこには5機のウオディックが停泊していた。

「さあ閣下、真ん中の金色のウオディックが閣下の専用機です、ヘリオス島までは我らが命に変えてお送りいたします」

 こうして皇帝を乗せた5機のウオディックは暗い海底へと姿を消したのだった。

へリック合衆国誕生とハーマン主義

 戦争の混乱もようやく落ち着き始めた6月、へリック共和国大統領、ロブ・ハーマンは連日戦後の国家の立て直しに多忙を極めていた。寝る暇さえ惜しんで働き続けるハーマンを心配して周囲は休暇を取るよう勧めていたが、ハーマンは一向に休もうとしなかった。ヴォルフとの約束である「平等で平和な国」を作り上げる使命に燃える彼は、疲れなど全く感じていなかったのである。

 その時、大統領室のドアをノックする音が聞こえ、ある人物が姿を現した、それは若き副大統領フランクリン・ルーベンスであった。

「…なんだ君か、何か用かね?」

「大統領、国の復興はかなり整ってきました、そろそろ軍備にも力を入れ、早急にガイロス帝国へ侵攻しましょう、あのような好戦的な危険国家は一刻も早くこの地上より排除すべきです、今ならば簡単に叩き潰せます!」

「馬鹿を言うな、戦いに疲れ切った軍民を再び戦いに駆りだせと言うのか? それに噂によれば南のアーカディア帝国や北のディガルド帝国も近年力を付けつつあると言うでは無いか、本土防衛戦力まで整える余裕は無い」

「目先の平和の為に未来の脅威を野放しにするおつもりですか? ゼネバス人奴隷を国力回復に充てれば軍備増強の余裕は出来ます!」

「ダメだ、その奴隷制度も徹底的に禁止する! 今後我が国はへリック人もゼネバス人も風族も地底族も無い、この中央大陸に住む者すべてをへリック人とする新たなる国家に生まれ変わるのだ!」

「なんですって!? あんな劣等民族と我らが同等となると言うのですか!? ゼネバス人の野蛮さは先の大戦で明らかになったではありませんか! 奴らは我らへの恩を仇で返したのです、やはり奴らは暴れるだけしか能の無い劣等民族なのです!!」

「それでは何も変わらんでは無いか、戦いから何も学べず過ちを繰り返す事こそ劣等民族のする事だ、我らは先の戦いでゼネバス人の勇敢さと健全なる精神を思い知った、真の強国となるには彼らの力がどうしても必要なのだ、真の強国となって我が国が世界ににらみをきかせる事で世界から争いを無くす事が出来るのだ、直接武力を用いず平和を実現する事こそ優秀民族のする事なのではないか?」

「フ…、ずいぶんとゼネバス人の肩を持つのですなぁ、あなたの母、ルイーズ氏がゼネバスの娘と言う噂もあながち噂では無いのかもしれませんねぇ…」

「だまれ! 俺の母はれっきとした風族だ! 副大統領ともあろうものが下らん噂を信じるとは何事か! もう話す事は無い、出て行ってくれ!!」

「フ、また来ますよ」

 そう言い残しルーベンスは大統領室を出て行った。

(全く…、奴はあの危険な思想さえなければ優秀な男なのだが…)

 ハーマンは深いため息をついた。

 その月の中旬、ハーマンは民衆の前で大々的に演説を行い、中央大陸すべての民族を「へリック人」として統一する意味を込め、国名を「へリック合衆国」とする事を宣言、また奴隷制の一切も禁止した。
 さらに、今後へリック合衆国は外国との政略的干渉の一切を止め孤立した国家になる事を宣言、これを人々は「ハーマン主義」と呼んだ。

 こうしてへリックは全く新しい国家としての再スタートを切ったのである、その先にあるのは平和か戦乱か…、それはまだ誰にもわからない…。

凶兆

 ここ暗黒大陸のガイロス帝国は、8年前の摂政プロイツェンの反乱により首都ヴァルハラは崩壊し壊滅的被害を受けた。しかし、若き皇帝ルドルフ・ツェッペリンと、それを支える宰相カール・リヒテン・シュバルツの善政により首都をチェピンへ遷都し、へリック共和国への援軍の報酬として西方大陸北エウロペの旧領の一部も取戻し、着々と力を回復させつつあった。

 そこへもたらされたのが中央大陸へ援軍として送ったヒンドルフの軍がへリックに独断で反乱を起こしたと言う知らせだった、この知らせにシュバルツは怒り心頭に発し、即刻ヒンドルフとその参謀ルードヴィヒを処断するよう皇帝へ進言したが、心穏やかな皇帝ルドルフは軍の混乱が収まるまではと両名への処罰を急ぐ事は無かった。
 そして8月、壊滅的被害を受けた軍の再建の目途が立ったため、両将軍はついに皇帝とシュバルツの前に引き出され裁断を仰ぐ事となったのである。

「ヒンドルフ、ルードヴィヒ! 今日呼ばれた訳はわかっておろうな? 貴様らの為にへリックとの同盟は決裂し、軍は壊滅、さらに世界からの信用も失ってしまったのだ、一国の軍を預かる身でありながら本国の意向を無視して独断であのような暴挙に出るなど古今東西類を見ない事であるぞ! もはや貴様らの処刑は免れないが、せめて言い訳くらいは聞いてやろう、言いたい事があるなら言ってみよ!!」

 激しい剣幕で怒鳴り散らすシュバルツにヒンドルフ将軍はすっかり萎縮し頭を垂れて黙りこくっていたが、参謀ルードヴィヒは堂々たる態度で言い放った。

「へリックへの反乱は私がヒンドルフ将軍へ進言したものであり責任はすべて私一人にあります、皇帝陛下が私の死を望むのなら私はそれを甘んじて受けましょう、私の行動はすべて今までも、そしてこれからも帝国と陛下の為を思っての事なのです」

「だまれ! 何が帝国と陛下の為を思ってだ! 貴様のおかげで我が国はこれまでにない窮地に立たされているのだぞ!!」

「だまらっしゃい!! 私はシュバルツ殿と話しているのではない、皇帝陛下と話をしているのだ、それとも貴公は第2のプロイツェンになる野心でもお持ちなのかな? フフ…」

 「プロイツェン」その名を聞き皇帝の眉がピクリと動いた、あの男は先代皇帝に絶対唯一の忠臣として絶大なる権力を手にしながら、裏では常にゼネバスの再興と言う野心を秘め、ついに最後には反乱を起こして一度はルドルフを失脚にまで追い込んだ男である、わずか10歳にしてその脅威を体感したルドルフの心には、プロイツェンの名は消える事の無いトラウマとして根深く存在し続けているのである。
 若きルドルフにとってシュバルツは必要不可欠な人物であり、ここまで国が復興したのもすべて彼の功績によるものだ、確かに年老いて国政が執れなくなった先代皇帝を補佐するプロイツェンとの関係にも似ているが、シュバルツはプロイツェンとは違い清廉潔白な人物だ、だが、老いたとは言え、かつて覇王と呼ばれたガイロス皇帝さえその表の仮面に騙されたのだ、もしかするとシュバルツにも裏の顔があるのではないか…、そう疑う心が無いと言えばそれは嘘であった、その心理をルードヴィヒは突いたのである。

「まあシュバルツ、最後まで話だけでも聞いてみようではないか、ルードヴィヒ、続けてみよ」

「は…、ありがたき幸せ、確かに中央大陸強奪には失敗しましたがそれは真の目的ではありません、私はあの作戦は完全に成功だったと自負しております、確かに軍は壊滅しましたがあんなものはほとんどが軟弱なゼネバス製ゾイドであり、あって無きが如きプロイツェンの負の遺産です、私はそれに引き換え何十倍も価値のある物を手に入れてきました、それは、真・オーガノイドです!」

「真・オーガノイドとな? それがへリックとの同盟、軍の壊滅、世界の信用以上に価値があると言うのか?」

「はい、これさえあれば我が軍のオーガノイドシステム研究が完成すると同時に、OSを我が国で独占する事が出来ます、反対にへリックがこれを手にしてしまっていたらもはやあの国に対抗できる国は無くなり、世界はへリックに支配される事になったでしょう。そうなればなけなしの戦力など全く意味も無く、へリックとの同盟も奴らが力をつけるまでの都合の良いものでしか無くなっていた事でしょう。…陛下にお見せしたいものがあります、私に付いてきていただけますか?」

脅威 新生暗黒ゾイド

 そうしてシュバルツの静止を振り切り、一同は軍の演習場へとやってきた、そこには1機のヘルディガンナーがあった。

「なんだ、ただのヘルディガンナーでは無いか、これがなんだと言うのか」

 強いゾイドを好むルドルフは強力な新型ゾイドの登場を期待していたが、従来の、それもガイロス最弱の機体の登場にがっかりした様子であった。

「これはただのヘルディガンナーではありません、新型オーガノイドシステムを搭載したヘルディガンナーです、その力はかつて暗黒軍と世界に恐れられたものに匹敵するまで向上しています、これより模擬戦闘を行い、暗黒ゾイドの真の力を陛下にお見せいたしましょう」

 ルードヴィヒが無線機で何か命じると、格納庫よりセイバータイガーとレッドホーンが姿を現した。

「ま、まさかあの2機が相手だと言うのか!? 無茶だ、ヘルディガンナーではレッドホーンの装甲を貫けないし、セイバータイガーの動きを捉える事は出来んぞ!!」

 ルードヴィヒは不敵な笑みを浮かべたまま模擬戦闘開始の合図をする、と同時にセイバータイガーとレッドホーンは一斉に主砲を発射する、「終わった」ルドルフとシュバルツは思った。しかし、次の瞬間ヘルディガンナーは驚異的な身のこなしで間一髪で砲撃を回避すると近くの岩場に身を隠した。

「馬鹿な! あの鈍重なヘルディガンナーとはとても思えん!!」

「フフ…、オーガノイドシステムがもたらす莫大なるエネルギーを動力パイプにより瞬時に機体全体へ行きわたらせる事により、その運動性能は3倍にもアップしているのです、さらに、頭部コックピットフードは高性能レーダーシールドとなっており、敵の動きを瞬時に把握する事が可能です」

 岩場に身を隠したヘルディガンナーは砲撃から身を守りつつ背部主砲をせり上げてレッドホーンに照準を合わせると収束ビーム砲を放った、そのビームの輝きはこれまでのヘルディガンナーのそれとは思えない禍々しくも力強いものであった、そしてビーム砲は次々にレッドホーンに命中し、一方的に撃たれ続けたレッドホーンは脚が吹き飛び主砲は破壊されついに戦闘不能に陥った。

「信じられん…、あのレッドホーンの装甲を破るとは、これがヘルディガンナーの力…、これが暗黒軍の力なのか…!?」

 あっけにとられ戦闘に見入っていたシュバルツは、今の光景を見たルドルフの瞳の色が変わった事に気が付かなかった。

「フフ…、驚くのはまだ早いですぞ陛下」

 レッドホーンとの戦闘の隙にセイバータイガーは素早くサイドへ回り込み、既にヘルディガンナーまで数十メートルの距離まで迫っていた。ヘルディガンナーは再び驚くべき旋回性能でセイバータイガーの方向へ振り向き主砲を放ったが、それはさすが高速戦闘ゾイドであるセイバータイガーは難なくかわし、ストライククローを振りかぶってヘルディガンナーに切り掛かった、火花を散らしながら吹き飛ぶヘルディガンナー、大型ゾイドの格闘攻撃の直撃を受けては今度こそ終わりだ、ルドルフとシュバルツはそう思った。

 しかし、十数メートルも吹き飛ばされ右前脚をもぎ取られつつもヘルディガンナーは素早く起き上がり、背部複合砲の衝撃砲を放った、凄まじい衝撃によりセイバータイガーはバランスを崩し一瞬動きが止まる、そこへビーム砲と胸部の2基の連装ビーム機銃を一斉に撃ちこみ、セイバータイガーは蜂の巣になって沈黙した。

「な…、何という生命力だ、従来の中型ゾイドの常識を遥かに超越している…!!」

「暗黒ゾイドの力はいかがですかな閣下、OSでここまでの力が引き出せるのはこのニクス産ゾイドだからです、もしへリックがこのシステムを完成させたとしても、ここまでの性能は引き出せません、まさに神が我らの為に作り出したシステムなのです、これを使って再び暗黒軍を再建し、今度こそガイロス皇帝の悲願であった世界征服を実現するのです!」

「…世界、…征服…」

 破壊されたセイバータイガーを呆然と見つめながらルドルフはそうつぶやいた。

「陛下! たぶらかされてはいけません!! 今後我らは争いの無い平和な国を作っていくと誓ったではありませんか!! このルードヴィヒこそ第二のプロイツェンです、即刻この男は処断し、この邪悪なるシステムも永久廃棄すべきです!!!」

 シュバルツはルドルフの前に躍り出て必死に諭したが、それを遮ってルードヴィヒは話を続けた。

「陛下、陛下は先代ガイロス皇帝の教えをお忘れになったのですか? 世界から争いを無くし真の平和を実現するためには、圧倒的力を持った者によって統一する以外無いのです、そしてその使命は我がガイロスにある」

「それは単なる野心と言うものでは無いか? 余は世界など欲しくは無い、ただ平和のみを望むものである」

「…閣下はギルベイダーと言うゾイドをご存じですか? かつて我がガイロスが誇った史上最強のゾイドです、地球人と言う異物の技術を使わず純粋なるゾイド人の技術により圧倒的最強ゾイドを作り上げたのは我がガイロス、それこそが世界の覇者たる何よりの資格です、本来ならギルベイダーの力により世界は当にガイロスにより統一され、今頃は争いの無い平和な世界が実現していたはずでした、しかし、へリックは地球人と言う惑星外生命体である異物の力を借りて邪悪なるキングゴジュラスと言うゾイドを生み出し自然の摂理を捻じ曲げた、その結果未だ争いの火種は絶えず、何十、何百万もの人命が失われているのです、しかし、キングゴジュラスもこの世にない今、暗黒軍を再建して世界を統一し、地球人と言う異物を排除し、この惑星を本来あるべき自然の摂理に戻す時! その使命は陛下の手にゆだねられているのです!!」

 ルドルフはしばらく目を閉じて考え込んでいたが、やがておもむろに口を開いた。

「先の暴挙に対する処罰を言い渡す、ヒンドルフは中将へ降格し総司令官の地位も剥奪、さらに1年間の謹慎処分とする! ルードヴィヒにはOSの更なる研究と暗黒軍再建の総責任者を命じる、ただし失敗は許さん、命を懸けて使命を果たすのだ!!」

「陛下…、まさか…」

 青ざめた顔で見つめるシュバルツにルドルフは笑みを返した。

「案ずるなシュバルツ、別に世界征服の野心に目覚めたわけでは無い、軍が壊滅してしまった事は事実だ、我が愛するガイロスの臣民の為、余は自国防衛の為の戦力が欲しいだけだ」

 それでもシュバルツの不安は拭い去れなかった、ルドルフは心優しく穏やかな性格だが、野心家ガイロスの血を確かに引き継いでいるのだ、圧倒的力を手にした時、その野心に火がついてしまうのでは無いか…、シュバルツは嬉々とした無邪気な表情でヘルディガンナーを眺める若き皇帝を不安な眼差しで見つめていた。

第1章 完

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