第2章 ヘリオス島動乱(後編)

ZAC2110年ヘリオス島勢力図

勢力図

各勢力保有ゾイド

大ゼネバス帝国

  • グレートホーン…7
  • マーダ…19
  • ゲルダー…15
  • ザットン…10
  • ゲーター…6
  • モルガ…26
  • モルガキャノリー…12

新ゼネバス共和国

  • サーベルタイガー…6
  • ブラックライモス…4
  • ブラキオス…15
  • ハンマーロック…12
  • ヘルキャット…17
  • マーダ…30
  • ゲルダー…18
  • ザットン…20
  • ゲーター…7
  • モルガ…44

 ZAC2110年8月ヘリオス島、8年前、突如襲来したシュテルマー率いる旧ゼネバス帝国将兵の残党により幕府を牛耳られ、住民は圧政に苦しめられたが、ヴォルフの立ち上げた反幕府連合によりシュテルマーは倒され、ヘリオス島は新たなる転換点を迎えていた。

 いまやヘリオス島は2つの勢力に分断され、動乱のさなかにあった、幕府軍は緒戦にて主力のレッドホーンを中心とした重戦闘ゾイドと切り札のアイアンコング、そして皇室の後ろ盾と大将軍シュテルマーを失い甚大なる損害を被った。
 しかし、シュテルマー四天王の生き残りが引き継いだ幕府軍は未だ保有ゾイド数、兵員共に官軍を上回り、無敵を誇るトビー高速戦隊も健在である、兵員の士気回復と戦略次第では挽回の可能性もあった。

 対するヴォルフ率いる官軍はゾイド保有数では幕府軍に劣るものの、士気も旺盛で、グレートホーン、モルガキャノリーと言った新型ゾイドも装備して精強であり、さらにマサツ、タンシュウ、トユウと言った大藩を味方に引き入れ、ゾイド生産力でも幕府軍を大きく上回っていた、戦いの主導権は完全に官軍が握っていると言える。

二つのゼネバス

 初夏から8月にかけて発生した官軍と幕府軍との一連の戦闘より早2か月経った10月、ヘリオス島には冷たい風が吹き始め、冬の訪れを感じさせる様になっていた。

 ここ2か月、両軍の軍事境界線では時折監視兵同士による小規模な銃撃戦などが発生し緊張に包まれていたが、お互い大規模な攻勢に出る事も無く、ヘリオス島には束の間の平穏が訪れていた。

 幕府軍は夏の一大決戦により大損害を受け、すでに攻勢に出るだけの余力は無く、官軍もシュテルマーの捨て身特攻によりドエ侵攻のための物資を失い身動きがとれなかったのだ。

 夏の決戦の大敗北と、大将軍シュテルマーの死により幕府の威信は地に堕ち、これまで武力により押さえつけられていた民衆の中に、この国の革新を望む声が高まり始めていた。

 これに至り、頃合いと見た天皇ヴォルフは、トキョウを首都に定め、新政府の樹立を宣言、国号を「大ゼネバス帝国」に定め、初代総理大臣にタンシュウ藩出身の「伊藤白文」を任命、ヘリオス島の正式な支配者となった事を宣言した。

 さらに、ヴォルフはこの国の改革を宣言した。
 これまでこの国は幕府が支配していたが、所詮は「藩」と言う独立組織の集合体に過ぎず、一枚岩とは呼べない脆さをもった国であった。
 そこでヴォルフは藩を廃止し、すべての地域を新政府の管理下に置き、「大ゼネバス帝国憲法」と言う新たな法律を制定し、これまでの身分制度や人種差別を撤廃し、すべての民衆が平等に同じ法の下に置かれるとした。

 これには一部の武士などから反発を受けたが、これまで自由な結婚や職に就けなかった大衆に大いに支持され、元々幕府の息のかかりが弱かった北方諸藩は次々に正式に幕府からの離反を表明、新政府の傘下に降った。
 ヴォルフの夢であった自由で平等な理想郷がついに現実味を帯び始めたのである。

 これに幕府は強く反発し、シュテルマー四天王の生き残りは、幕府の息が強くかかり、依然武家政権による支配を望む南方諸藩を束ね、徹底対立の構えを見せた。

 シュテルマー一派は新たなる大将軍は立てず、一時幕府を解体し、四天王筆頭で幕府海軍提督であったガーランド将軍を総督とした「真ゼネバス共和国」の建国を宣言、これに南方諸藩筆頭のズアイ藩を中心とした諸藩が同調し、結束して徹底的に新政府に対抗する構えであった。

 こうして、全く新しい国を目指す革新の「大ゼネバス帝国」と、幕府再興を目指す保守の「真ゼネバス共和国」、ゼネバスの名を持つ全く違う2つの国家が、ヘリオス島と言う小さな島国に誕生し、島は2つに分断されたのであった。

アーカディアよりの使者

「ヴォルフ様! アーカディア帝国よりアース将軍がお見えになりました!」

「おお! 来てくれたか!! すぐに応接間へ通せ、丁重にもてなすのだ」

 ここは大ゼネバス帝国帝都トキョウにある御所、帝国軍はシュテルマーにドエ侵攻の為の物資を灰にされたため、ここ2か月再び物資をかき集めていたが、相次ぐ戦いで疲弊した諸地方からはなかなか物資が集まらず、ヴォルフは日々焦燥感にかられていた。

 共和国軍とて未だ戦力では新政府軍を上回り、再び諸藩を束ねれば挽回される可能性も十分ある、それに、南のアーカディア帝国、北のディガルド帝国などと結ばれれば泥沼の内戦に陥り両軍自滅と言う最悪のシナリオも想定できた。
 あまり手をこまねいている暇は無かったのである。

 この状況を打開すべく天皇ヴォルフは日々頭を悩ませていたが、「もし道に悩んだらアーカディアを頼れ」と言う、あの日のシュテルマーの言葉を思い出し、先手を打ってアーカディア帝国へ救援の要請をしていたのである。

「おお! 良く参られた、私がこの国の皇帝ヴォルフ・ムーロアだ」

「私はアーカディア帝国機甲師団長アース・クロイツです、お初に、ヴォルフ様のご活躍はネオゼネバス帝国時代より聞き及んでおります、お目にかかれて光栄であります。しかし…、へリックの公表では死亡したとされておりましたが、こうして再びゼネバスの王となられていたとは驚きました…」

「ハハ…、まあ色々とあってな、まだ私の存在は世に知られたくない、今日の事はどうか内密に願いたい」

「…分かっております」

 両者はしばし笑顔で会話をかさねた、しかし、その目は笑っておらず、獲物を見定める鷹の様な鋭い眼光で互いを見つめていた。

「して、そろそろ本題に入りたいのだが…」

「その件なればご安心めされよ、既に要求分の物資を持参し、伊藤首相に受け渡し済みです」

「なんと!!! では!!?」

「はい、我がアーカディア帝国は大ゼネバス帝国に全面的に協力し、軍事協定と通商条約を結び、ヴォルフ様がこの国を統一した暁には同盟も結びたいと考えております、真ゼネバス共和国の思想はもはや時代遅れです、我らは世界平和のため、よりすぐれた国家の誕生を望んでいるのです…」

「おお! なんと素晴らしい思想か、これからも両国の、果ては世界平和の為、互いに手を取り合って行こうとアトレー王に伝えて欲しい、いずれ私も貴国に赴き、直接アトレー王と会談したいと思う」

「それは良い、ヴォルフ様のご活躍には我が王もかねてより強い関心を示していましたので喜びましょう。して、ドエ総攻撃はいつの予定となりますか?」

「準備は整ったのだ、もはや一刻も待ってはおれん、これよりすぐ作戦に移るつもりだ」

「それならば我が機甲師団もお力をお貸しいたしましょう」

「うん? それはありがたいが…、失礼だが近代戦闘ゾイドが無くては…」

「その件ならば心配ございません、お互いを知るため、我が軍の精強さもお見せいたしましょう」

「?????」

 そう言うや、アース将軍は不敵な笑みを浮かべるのだった。

アース将軍の謎の自信

 その晩、物資の整った新政府軍は早速ドエ侵攻の作戦会議を開いた。会議室にはヴォルフを筆頭に、北条英機、大田口廉也、西郷特盛、桂大五郎、後藤象三などと言ったそうそうたるメンバーが顔を連ねていた。

 足並みの乱れた今の幕府軍を破る事はさして難しい事では無い、しかし、諸将の不安の種は神出鬼没の高機動力を誇る、サーベルタイガー6機からなるトビー高速戦隊の存在であった。
 もしも再びドエ侵攻軍の合間を縫って、手薄となった背後の都市を襲われたら…、今度こそ新政府への人心を失い、たとえ戦争には勝ったとしても、その後の国づくりに甚大な悪影響を及ぼす事が考えられるからだった。

「では諸君、トビー高速戦隊の対処を思う所あれば述べてみよ」

 ヴォルフはギロリと諸将の顔を見渡した。

「では…」

 立ち上がったのはヴォルフの知恵袋、北条であった。
 北条は話を続ける。

「私は輸送部隊を囮にするのがよろしいかと思います。
 まず、主力部隊を先行させ、その後方から輸送部隊を出します。輸送部隊はわざと目立つ様に進ませます。そうすれば血気盛んなあのトビーの事、必ずこれを撃破せんと出てくるはずです、そこを周囲に潜ませておいた大田口のモルガキャノリー部隊で一気に殲滅するのです!」

「うむ、なるほどな、皆はどう思う?」

 ヴォルフの問いに全員黙って頷いて見せた。

「よろしい、では囮部隊は誰に率いてもらうか、これはかなり危険な役となるな…」

「それならば私にお任せください」

 そう言って立ち上がったのはアーカディア帝国から援軍を率いてやって来たアース将軍であった。

「私は丁度4機のグスタフを持ってきました、その役目は我らにこそふさわしいでしょう」

「おお! グスタフとな!? それならば危険性もかなり減るだろう、では護衛には…」

 そこまで言いかけたヴォルフをアース将軍は手のひらで遮った。

「護衛は不要です、それに、モルガキャノリー部隊の出番もおそらく来ないでしょう、フフフ…」

「…よほど自信がおありの様だな、しかし、貴殿にもしもの事があってはアーカディア王に申し訳が立たん、ならばモルガキャノリー部隊は私自らが率いてトビーを仕留めて見せよう!」

 ヴォルフの出陣発言に周囲は猛然と反対したが、ついに彼の武人としての湧き立った血を冷ます事の出来る者は居なかった。

会敵

「アース将軍、この大量の積荷はなんだ? これはあくまで囮なのだ、本当に物資を失っては元も子もないのだぞ?」

 翌日、早速ドエ侵攻作戦が開始されようとしていた。集められた新政府軍のゾイド軍団の中にアーカディア帝国軍の4機のグスタフを見つけたヴォルフはアースに尋ねた。
 4機のグスタフにはそれぞれ5台ものトレーラーが連結され、白い布に覆われた大量の積荷が積まれていたのだ。

「陛下、敵のトビー将軍は相当の戦士だと聞いています、それだけの大物を釣り上げるには餌もそれなりのものを用意せねばなりますまい」

「それはそうだが、しかし…」

 ヴォルフはそれ以上アースに問うのを止めた。今回作戦に移れたのはアーカディアの支援あっての事だ、その客将の気を損ねるのは得策ではないと判断したからだった。

 かくしてドエ侵攻作戦は開始された。まず総大将、北条英機に率いられた官軍主力が出立し、数時間後アース将軍率いる囮輸送隊と、その後方にはヴォルフと副将大田口が率いるモルガキャノリー部隊、そして最後に本物の輸送部隊と言う陣容で進撃が開始された。
 囮作戦の概要は、アース輸送部隊が会敵し次第、すぐに反転し、後方のモルガキャノリー部隊によって敵ゾイドを殲滅する手筈であった。

 数刻後、先陣の主力部隊から国境を越えたが敵の反撃の様子は全く無しとの通信が入る。恐らく無駄な損害は避け、ドエに戦力を集中しているのだろう。

 やがて囮輸送部隊も国境を越える。未だグスタフの高性能センサーは敵影を捕えていない。

 さらに進撃を続けるアースは、グスタフのコックピット内から周囲を注意深く探りながら進んでいた。
 やがて一行が岩場地帯に差し掛かった時、アースは岩場の影に人影が動いたのを見つけ一人ほくそ笑んだ。

(どうだ、うまそうなエサだろう、早くお仲間にご馳走のありかを教えてやれ…!)

 そしてさらに進んだ時、突如グスタフの索敵センサーが敵影を捕え、コックピット内に警戒ブザーが鳴り響いた。6機の敵影はものすごい速さで接近してくる、識別信号にはサーベルタイガーとあった。

「それ、本命が針にかかったぞ! 今こそゼネバスの猿どもにアーカディア帝国軍の恐ろしさを見せつけてやるのだぁ!!」

 アースの号令にトレーラーの荷台の布で覆われた物体が一斉に蠢きだし、布は見る見る盛り上がって行った。
 そして、覆いを破り、トレーラーから次々に何かが飛び出して行く。この様子は監視兵によってヴォルフに知らされた。
 当初の手筈通りすぐに反転しようとしないアースに不信を抱いたヴォルフは、すぐにアースへ向けて通信を入れる。

「アース将軍! 会敵したならすぐこちらへ引き返せ! 一体何をしようと言うのだ!」

 アースより返信が入る。

「言ったでありましょう、陛下の出番はありません、トビーは私が仕留めて見せます、その場にて朗報をお待ちください」

「ダメだ! グスタフの武装では到底サーベルタイガーは倒せん! サーベルタイガーを、トビーを甘く見るな! すぐに引き返すんだ!!」

 グスタフには確かに機関砲が備え付けられていたが、あんなものでは到底サーベルタイガーを倒す事は出来ない。ヴォルフは尚も呼びかけたが、ついに返事はかえって来なかった、アースは通信を切ってしまったようであった。

「やむを得ん、前進するぞ! アース将軍だけは死なせてはならん!!」

(チッ! アースめ功を焦りおって、俺の部下なら軍法会議にかけて処刑してやるものを…!)

 ヴォルフ率いる12機のモルガキャノリーもアース支援の為に前進を開始した。

ブロックス・ザビンガ

 グスタフのトレーラーから飛び立った20もの影は、一斉にサーベルタイガーに襲い掛かった。
 モモンガの様な姿をしたその小型ゾイドは、胴体両サイドに装備されたブレード状の武装でサーベルタイガーに切りかかる。

 突如として現れた正体不明のゾイド軍団に、百戦錬磨のトビー高速戦隊も回避する間も無く切り裂かれてしまった。
 しかし、ただ1機、先頭を走っていたサーベルタイガーだけはすべての攻撃を華麗にかわし、主砲によりすれ違った謎の小型ゾイド3機を瞬く間に撃墜していた。これこそがトビー高速戦隊隊長、四天王トビーの駆る機体であった。

「貴様ら、致命傷は受けていまい、敵は見た事も無いゾイドだが所詮は小型ゾイドだ、見たところ高威力火器も搭載していないようだ、貴様らなら落ち着いて対処すればどうと言う敵ではないだろう!!」

 トビーの号令に6機のサーベルタイガーはすぐに冷静さを取戻して陣形を立て直した。さすがは無敵を誇る歴戦の勇士たちだ。

(しかし、つい先ほどまでゾイドコア生体反応センサーにはグスタフ4機の反応しかなかったのに、これまで経験してきたあらゆるステルスゾイドの出現とも違う…、あのゾイドは一体…)

 トビーは不思議に思っていた、通常、生命体であるゾイドはいくら機動を停止していても、ゾイドコアからは常に生体反応を発している、セイバータイガークラスの大型ゾイドになると、当然これを察知するためのセンサーが装備されており、これにより敵の位置や数、さらには機種もある程度特定する事が出来る。

 それはステルスゾイドとて例外では無く、ある程度接近すれば微弱ながら反応をキャッチする事は出来る、それを見逃すトビー高速戦隊では無い。

 それを今回は6人のパイロット全員が反応をキャッチする事が出来なかった、いや、まるで何もない所からいきなりゾイドが湧き出て来た様にも思えたのだ。

「良いか! 敵は直進スピードは速いが運動性能はそれほどでも無いようだ、第2波攻撃は紙一重でかわし、後ろから主砲で撃ち落してやるのだ!!」

 正体不明のゾイドは反転すると再び高速戦隊に向かって来た、6機のサーベルタイガーはトビーの命令通り、この攻撃をかわそうと、じっと待ち構えている。

 やがて17機の正体不明ゾイドは第2波攻撃を加えた、6機のサーベルタイガーはこれを稲妻の様な速さで回避する、中にはブレードにかすって火花を散らす機体もあったが、さすがエースパイロット集団である彼らには2度も同じ攻撃は通用しなかった。
 紙一重で攻撃をかわした6機のタイガーは、咄嗟に向きを変えると、背中を向ける正体不明ゾイドに一斉に主砲を浴びせかけた。
 これには正体不明ゾイドもたまらず、一瞬にして13機が撃ち落されてしまうのだった。

「ば…馬鹿な、我がアーカディア帝国軍が誇る最強のブロックス・ザビンガ軍団が惨敗…だと…!? こんなはずでは、こんなはずでは…!!」

 グスタフのコックピットからこの戦闘を傍観していた、正体不明ゾイドの司令官アース将軍は愕然としていた。

 この正体不明ゾイドはザビンガと呼ばれる新型ブロックスであった、ブロックスは第2次中央大陸戦争において、へリック、ネオゼネバス共に主力として用いた人口ゾイドである。
 ブロックスは個々の戦闘力こそ通常ゾイドには及ばないが、安価で量産が利く事から、通常ゾイド量産体制の整っていなかった第2次中央大陸戦争では、両軍の主力として活躍したのであった。

 しかし、第2次中央大陸戦争終結後、ネオゼネバスと契約していたブロックス製造企業「ズィー・アームズ社」はネオゼネバス敗退により契約先を失い、へリックと結んでいた「ゾイテック社」も通常ゾイド量産体制の整ったへリックから契約を打ち切られ、路頭に迷っていた所を、南方大陸を植民地化しつつあったアーカディア帝国が買収、その威によって、破竹の勢いで南方大陸を制覇する事ができたのであった。

 また、疑似生命体であるブロックスの特徴として、起動させるまで、人口ゾイドコアたる「コアブロック」の機能も完全停止させる事が出来、これにより奇襲攻撃を行ったりなど、あらゆる戦場に柔軟に対応することが出来る。
 第二次中央大陸戦争に参加していなかったシュテルマー率いる旧ゼネバス一派は当然この特徴を熟知していなかった、トビーが驚くのも無理のない話だ。

 そんなゾイテック社が売り込んだ新型ブロックス・ザビンガは、確かに南方大陸戦線では無敵を誇った、しかし、それは相手が野生ゾイドにまたがり、小銃や槍で武装した古来よりのゾイド星人の戦闘スタイルだったからである。
 近代戦闘ゾイド戦を初めて経験したアース将軍は、身を持って近代ゾイド戦の厳しさを痛感したのだった。

(世界征服などとんでもない、わが国にも大型ゾイドと、ゾイド戦術の研究が必要だ…)

 アースは震える手で無線機に手を伸ばした。

「こちらアース…、ヴォルフ閣下応答願います、我が隊は現在トビー高速戦隊と交戦中、至急援護を願いたい…!」

死闘! 超戦士・四天王トビー

「何? トビー高速戦隊と交戦だと!? なぜ手筈通りすぐに引き返さなかった! して戦況は?」

 アースとトビーの交戦地点の後方から進撃していたヴォルフは、苛立ち覚えながらアースからの通信を受けていた。

「はっ…、我が方はブロックスザビンガで迎撃しましたが、ザビンガ部隊は瞬時に壊滅…、我がグスタフも危機に瀕しております」

(ブロックス…!? アーカディアはブロックスを手に入れたのか!)

 アーカディア帝国がブロックスを手にした…、それは、これまで近代戦闘ゾイドを持つへリック、ゼネバス、ガイロスの独壇場であった世界の覇権をめぐる戦いに、侮りがたい第4の勢力が加わった事を意味していたのだ。

(愚かなりへリック…! 新たな争いの火種を残しおって、俺なら用済みとなったブロックス企業など跡形も無く叩き潰してやったものを!! だが、国力に劣る我が国にとって、アーカディアは今後必要不可欠の盟友となるであろう、逆に敵となったら極めて厄介だな…、世界を悪の手から守るため、わが国も性急なる領土拡大が必要だ…!!)

 ヴォルフはますます平和から遠のいていく世界情勢を嘆くのだった。

「起こってしまった事態は仕方ない、今からでも遅くは無い、何としてでもトビーをこちらまで引き寄せてくれ! 我が隊も全速力で向かう!! 死ぬでないぞ、アース将軍…!!」

「…かたじけない」

 この通信が終わるころには、既に最後のザビンガも撃ち落され、6機のサーベルタイガーはグスタフの方に向かって来ていた。アースは配下のグスタフに命令する。

「我が隊はこれより、作戦通り後退してヴォルフ殿のモルガキャノリー部隊と合流する! しんがりは私が務める、我が軍の誇りにかけて、何としてでも作戦を成功させるのだ!!」

 しんがりのアースのグスタフを残し、残り3機のグスタフはトレーラーを切り離して全速力で後退を始めた、その時サーベルタイガーは眼前に迫っていた。

(アトレー王、俺はここで死ぬかもしれん、だが、この戦訓を生かしてさらなる強国に、さらには世界の王となってくれ…!!)

「うおぉぉぉーーーー!!!」

 アースはコックピットをシェルアーマーの中に引き入れると、シェルのてっぺんに備え付けた機関砲で応戦した。
 しかし、サーベルタイガーはこれを巧みにかわし、渾身の力を込めたクローでパンチをかました。機関砲はあえなく破壊されてしまう。
 凄まじい衝撃が走り火花が飛び散る、だが、さすがグスタフは固く、この程度の攻撃では装甲は破れなかった。

 しかし6機のサーベルタイガーはアースグスタフに連続攻撃を仕掛けた。十数分後、凄まじい猛攻についにグスタフの装甲が破れ、ゾイドコアがむき出しとなる。トビーはすかさず主砲を撃ちこみ止めを刺した。

「逃げたグスタフもサーベルタイガーならすぐに追いつける! グスタフを残しておいては厄介だ、ここですべて各個撃破するのだ!!」

 こうしてグスタフは2機、3機と撃破され、ついに最後の1機に襲い掛かろうとしていた、その頃にはヴォルフ率いるモルガキャノリー12機も、望遠鏡でグスタフを確認できる位置まで接近していた。

「見えた…! グスタフだ、全体止まれ! 良いか? 迫撃砲の弾速はあまり速くない、長距離で撃っても歴戦のサーベルタイガーはかわしてしまうだろう、そうなればこちらの位置を知らせてしまうのがオチだ。この場にて待機し、敵のセンサーにかかる寸前まで引き付けて1撃で仕留めるのだ! 1機でも討ち漏らしたら我らは全滅したものと思えよ!!」

 ヴォルフはそう部下に命じて、サーベルタイガーが接近してくるのを息を凝らして待ち構えた。

 やがてサーベルタイガーはグスタフに追いつき、凄まじい攻撃を仕掛け始めた。猛攻にさらされながらも必至に前進するグスタフ。

「…3、2、1、今だ、撃てぇぇぇぇぇーーーーー!!!!」

 サーベルタイガーのゾイドコア生体反応センサーがモルガの存在を知らせると当時に、12門のモルガキャノリーの迫撃砲が一斉に火を噴いた。グスタフと6機のサーベルタイガーは一瞬にして凄まじい爆炎に包まれた。グスタフは破壊されただろうが、おそらくパイロットは無事であろう。

 その時、爆炎の中から一つの影が飛び出してきた、それは、トビーの駆るサーベルタイガーであった、いち早く気配を察知したトビーは直撃を免れたのである。

 しかし、先にザビンガによって傷を負っていた他の5機のタイガーは一瞬動作が遅れすべて木端微塵に砕け散っていた。レッドホーンさえ倒す迫撃砲の威力に、サーベルタイガーの装甲が耐えられるはずが無かった。

「…!!!!!!!! 謀られたか!!!!」

 トビーは爆炎に包まれる僚機を見つめながら、敵の策略にまんまとはまり、旧幕府軍の反撃の要であった虎の子のサーベルタイガーを失った事を恥じ、涙を浮かべながら唇をかみしめた。歴戦の勇士トビー将軍人生最大の屈辱であった。

「貴様らのかたきはこのワシが必ず討ってやる! ぬおぉぉぉぉーーーー!!!」

 サーベルタイガーはヴォルフ達の潜む森林地帯に向かって全速力で走りだした。これを見たヴォルフは第2弾の砲撃を命じるが、トビーはまるで着弾箇所が分かるかのようにことごとくこれをかわして接近してくる。

「サーベルタイガーの装甲はモルガの機関銃でも十分貫けます、相手はたかが1機、機関銃を一斉に浴びせてやれば容易に倒せましょう。私に行かせてくだされ!」

 そう進言したのは副将の大田口であった。ヴォルフはその意気やよしと許可を下す。

 大田口率いる11機のモルガキャノリーは横隊を組んでサーベルタイガーに向かって行った。やがてサーベルタイガーが主砲を撃ちこみ、1機、2機と脱落していったが、大田口は怯まず前進する。

 ついにサーベルタイガーは機関銃の射程に入り、9機のモルガは一斉に機銃を発射する。これにはさすがのサーベルタイガーも回避しきれず、次々と被弾し、至る所から煙を吹き出し始める。こうなればどちらが早く敵を殲滅できるかのスピード勝負だ。

 しかし、勝負は一瞬で決した、サーベルタイガーと一体となったトビーはビーム砲、レーザー機銃、ミサイル、衝撃砲など、あらゆる火器を一斉に放ち、驚くべき精度で一瞬にしてモルガキャノリーを粉砕してしまったのだ。
 だが、さすがのタイガーもすでに満身創痍の状態であった。大田口は鉄板の破片によって左わき腹を切り裂かれ、腸が露出する重傷を負ったが、からくも脱出し命に別状は無かった。

 怒りの化身となったサーベルタイガーは満身創痍になりながらもなおも最後の1機を仕留めようと走り続ける。そして、ついにヴォルフの乗るモルガに向けてその凶爪を振りかざした。

(これまでか!!)

 ヴォルフが死を覚悟したその時、何かの影がタイガーの眼前を横切ったかと思うと、その両前足は切断されていた。
 その影とは、アースの駆るザビンガであった。あの後、からくも生き延びたアースは、トレーラーの自走機能を使ってザビンガの残骸を回収し、使えるパーツをかき集めて新たなザビンガを作りだしていたのだった。これぞブロックスの真骨頂である。

 バランスを崩したタイガーはモルガのすぐ脇に崩れ落ちる様に着地した。すかさずトビーは主砲にてザビンガを撃ち落す。

 だがその時、咄嗟に向きを変えたモルガキャノリーの迫撃砲の照準はサーベルタイガーを捕えていた。至近距離で放たれた迫撃砲によって、タイガーは跡形も無く吹き飛んだ。
 こうして旧大戦から勇名を馳せた超戦士、四天王トビーは82年の生涯の幕を下ろした、戦士にふさわしい死であったと言えよう。

「トビー…、恐ろしい敵であった、願わくば生き延び、この俺の下で働いて貰いたかったものよ…」

 コックピットから降り、ヘルメットを取ったヴォルフは、感慨に浸りながら青空を見上げた。
 アースと、彼に肩を担がれた大田口も同じく空を見上げ、この戦いに一つの区切りが訪れた事に思いをはせるのだった。

四天王・知将マイケル ドエの運命

 一方その日の夕刻、総大将北条英機が率いるドエ攻略部隊は、ドエ近郊に到達し、ここにある「オツフ城」を攻略して陣を張っていた、ここまで幕府軍の反抗らしい反抗も無く、敵ゾイドは影も形も無い、ほぼ無傷の状態であった。

 ここで北条は西郷特盛、桂大五郎、後藤象三などの諸将を集め、明日のドエ侵攻に向けて軍議を開いていた。

「しかし、密偵によると軍港には艦船1隻の姿も見えぬと言うではないか、未だ健在の幕府艦隊の動向が気になるな…、突如現れて艦砲射撃でも浴びれば我が軍もただでは済まぬぞ」

 そう言って眉を潜ませるのは桂である。

「それに、ドエ付近にもゾイドの影も見えぬと言う、ドエは敵の心臓部だろう、普通なら全戦力を持って防衛にあたるはずだ」

 そう首をかしげるのは後藤。

「確かに妙だ、ドエ城には知将として名高い、シュテルマー四天王のマイケル将軍がいる、これは何かの罠かもしれぬな…」

 あごに手をやり、目をつむって考え込む素振りを見せながらそうつぶやいたのは北条であった。

「それは違いもす!!」

 机をたたいて立ち上がったのは西郷だ。

「何が違うと言うのか」

 桂はギロリと西郷を睨みつけた。

「これは罠では無いでごわす、いや、罠かもしれぬが、少なくともここで我らを討ち滅ぼそうと言う罠ではござらん」

「なぜそう思うのかね?」

 後藤が怪訝そうに尋ねた。

「おいどんも幕府内で何度かマイケル将軍と会見した事がござる、あの男は確かに幕府内でも並ぶ者無き知の者であった、敵は馬鹿では無い、馬鹿では無いからドエを戦火にさらすような事は何としてでも避けようとしているのでごわす。もし同じ立場だったら、おいどんでもそうするでごわす」

 西郷の話はこうだ、ゼネバスの近代戦闘ゾイドを手に入れようと、すでにこの国は南のアーカディア帝国や北のディガルド帝国に目を付けられている、ここで首都のドエが焼野原になれば、たとえ官軍、旧幕府軍のどちらが勝ったとしても、漁夫の利を狙った諸国にすぐ潰されてしまう、そんな事になるくらいなら、今はあえてドエを手放す道を選ぶだろう、と言う事だった。

「だから、明日の総攻撃は少し待っていただきもす、これからおいどんがドエ城に行って、マイケル将軍に話をつけてくるでごわす」

 そう言い残し西郷の巨体は会議室より姿を消した。

 残された諸将はあっけにとられたが、西郷の言う事ももっともだと言う事で、その晩は成り行きを見守る事で話は終結した。

 翌朝、トビー高速戦隊を下したヴォルフがモルガキャノリーに乗ってこの陣に合流した、アースも5機のザビンガを連れて同行していた、重傷を負った大田口はトキョウに戻り治療を受けている。

「陛下、良くぞご無事で…」

「うむ、トビーは仕留めて来た、して、そちらの首尾はどうなっておる?」

 北条は、西郷が無血開城を勧めにドエ城に単身乗り込んで行った事を伝えた。

「わっはっはっは! あっはっはっは!! そうか、あやつめ思い切った事をしよる、無血開城か…、余とてドエを戦火にさらす愚は犯したくない、ぜひ成功させたいものだな」

 ヴォルフは西郷のそういう所が好きだった。

 その日の昼過ぎ、西郷は人質としてマイケル将軍の妻である80近い老女を引きつれて陣に帰還した、交渉は成立したのである。

「マイケル将軍は本気だ、その人を解放してやれ」

 ヴォルフは人質を解放すると、西郷と数名の共だけを連れてドエ城に向かった、尚も罠を疑う諸将は危険であると引き留めたが、ヴォルフは誠意には誠意で答えたいとして聞く耳を持たなかった。

 やがてヴォルフ一行がドエ城にたどり着くと、立派な髭を蓄えた眼光鋭い老将が出迎えた、彼こそが四天王・知将マイケル将軍である。

 一行は応接間に通された、そこには酒や豪華な料理が用意してあった。

 会合が開かれると、まずマイケルが深々と頭を下げた。

「此度は無謀にもこのドエを戦火にさらさず、こうして話し合いによる解決の機会をいただき誠に感謝する所である、先に西郷殿と約束した通り、ドエ城は無血開城いたす」

「こちらこそ、ガーランド提督とマイケル将軍の度量には感服いたした、して、ガーランド提督は今いずこに…?」

 ヴォルフは旧幕府軍の総司令官である四天王筆頭、ガーランド提督の行方を尋ねた。

「提督は現在、麾下の旧幕府艦隊を引きつれズアイ藩におります、我が残存部隊もすべてズアイに集結しています、我々はまだ負けた訳では無いですからな…」

「しかし、ドエを失っては旧幕府軍にはもはや反抗する力は無いだろう、我とてこれ以上無駄な血は流したくないのだ、悪い様にはせぬゆえ、ここで我に下ってはくれぬか?」

「それは出来ぬ、我らは同じゼネバスを名乗るも、それは全く似て非なるもの、我らは永遠に分かり合えんのです、我らにあるのは生きるか死ぬか、勝つか負けるかの2つしか無い…」

「…分かった、ならばせめてそちだけでも我に下ってはくれぬか? そなたの持つ智謀とゾイド開発の技術は、今後へリックやガイロスと戦うためにはどうしても必要なのだ」

「フフ…、愚問だな、真なるゼネバスの戦士は絶対に二君に仕えぬ!! それをその目に焼き付けておくがいい!!!」

 そう叫ぶや、マイケルは懐から取り出した短剣によって自らの首を裂いて果てた。

 こうして首都ドエは、無血の内に新政府軍の手に落ちたのである。

崩れゆく旧幕府軍と北方の雄ディガルド帝国

 ドエ陥落より半月、旧幕府軍は残存戦力をズアイ藩に集結させていた。

「ワシが敵の物資を灰にして、3、4か月は足を止めて見せる、そして敵がドエに侵攻してきた時はドエは敵にくれてやり、我が軍は南方のズアイ藩に後退する。その時には南方はすでに深い雪に覆われているだろう。敵は冬の戦いには慣れていない、冬将軍が居る限り容易に手は出せない。その冬の間はトビー高速戦隊によるゲリラ戦を展開し敵戦力を削りつつ、アーカディアとディガルドに呼びかけて援軍を要請し、その援軍が到着次第、全軍を持ってドエを奪還、そうすれば未だ幕府は健在と、日和見を決め込む諸藩も抱き込むことができ、我らは逆転する事ができるだろう」

 これはシュテルマーが四天王に託した壮大なる最後の策であった。

 しかし、頼みの綱であったアーカディア帝国はあろうことか官軍につき、トビー高速戦隊も今は無い、しかもアーカディアから物資支援を受けた官軍は予想外に早くドエを攻略してしまった。南方には未だ冬将軍は訪れていない。

 四天王の生き残り、ガーランド提督はシュテルマーの策に従ってドエを捨て、ここズアイまで後退していたが、一度落ち始めたものは何をやってもダメなものである、もはやすべての歯車が狂い始めていた。

「後は奴がディガルドの援軍を引きつれて戻るのを祈るのみか…」

 幕府艦隊旗艦「カイヨー」に座乗する四天王ガーランド提督は深いため息をついた。

 その頃北方大陸のディガルド帝国では、ランスと呼ばれた男が皇帝ニコラス2世に謁見していた。

「なるほど、大ゼネバス帝国にアーカディアがついて予想外の速さで侵攻してきたから、来春に予定していた我が援軍を今すぐ寄こしてほしいと…、急にそういわれても我が方にも準備と言うものがある、困ったな」

 ニコラス皇帝はさして困ったと言う風も無く返事をした、大国の覇者たる余裕である。

「そこを何とか! もし我が真ゼネバス共和国が敗れる様な事があれば、アーカディアの手先となった大ゼネバス帝国が今度は貴国の障害として立ちはだかる事になるのですぞ…!?」

「分かった分かった、そう熱くなるでない、暑苦しくてかなわぬ。おい、ラスコーワ、はたして今援軍を送るべきかどうか占ってみてくれ」

 ニコラスは先ほどから玉座の横に立ち尽くしていた黒ずくめの長身の男に声をかけた、彼はニコラスから絶対の信頼を持たれている軍師である。

 ラスコーワは懐からカードを取り出すとそれを机に並べ、何やら呪文の様なものを唱え始める、ランスは呆然とそれを眺めていた。

 数分後、ラスコーワが一枚のカードを取り出して両者に見せる。

「陛下、今援軍を出すは凶と出ました」

「ふふ…、見ての通りだ、残念であったなランス殿、今援軍を出してもいい事はない、よって、先の約束通り、援軍は来春出すとしよう」

「…なっ!? あなたはこんな大切な決断を占いなどに任せると言うのですか!!」

「馬鹿にするでない、ラスコーワの力は本物だ、あらゆる高名な医師もさじを投げた不死の病にかかった我が子も助けてくれたのだからな、それに、そなたに見せたいものがある…」

「???」

 ランスはニコラスに連れられて軍事演習場の様な所にやって来た、そこで見た光景にランスは驚嘆の声を上げる。

「ばっ! 馬鹿な…!! ディガルド帝国も近代戦闘ゾイドの開発に成功していたのか!!!」

 そこには100体ほどの頭にとさかの様なものが付いた2足恐竜型のゾイドが並んでいた。

「ふふふ、こいつの名は「ブロックス・パラブレード」技師によるとそのスペックは貴国のハンマーロックを遥かに上回ると言う、もっとも、我が国独自の開発と言うわけでは無いがな…」

 そう、アーカディアと同じく、ディガルドもまた、ネオゼネバス崩壊によって路頭に迷っていたブロックス企業「ズィー・アームズ社」を取り込んで近代戦闘ゾイドを手にしていたのである。

「素晴らしい! 素晴らしい!! 素晴らしい!!! すぐに、すぐにこのゾイド軍団を貸してくだされ!! これさえあればドエ奪還も夢では無い!!」

「ランス殿、あいにくだがこのゾイドも配備されたばかりでパイロットの練度も低い、それにこの程度の数を送りこんだところで焼け石に水だろう、しかも最近隣国のガイロス帝国が不穏な動きを見せていてな、わが国にも最低限の防衛戦力を残しておきたいのだ、残念だがあきらめてくれ」

「そ、それはそうだが…」

「案ずるなランスどの、わが国の物資と労働力を持ってすれば、来春までにはパラブレードを数倍まで増やす事が出来る、そうなればヘリオス島など一飲みにできよう、今は耐えるのだ、今が試練の時ぞ!」

 ランスはニコラス皇帝の目に野心の炎が宿っているのを感じ思わず唾を飲んだ。

(この男は漁夫の利を狙っている…! 早く来年の春までに内乱を治め国を立て直さねば大変な事になる!!)

 ランスは迫る脅威に身を震わせつつヘリオス島へと帰って行った。

新政府軍動く! 旧幕府軍最大の危機

 11月上旬、天皇ヴォルフは首都をドエへ遷都し、正式に「大ゼネバス帝国」の設立を表明していた。
 なお、この時期より大ゼネバス帝国は、旧来よりのゼネバスの国章であった、ヘビとナイフによる十字を思わせる紋章から、ヘビが刀を抱いているような紋章を使用している。これは、ヴォルフが見たシュテルマーの最後をイメージしたとも、ゼネバスの頭文字である「Z」を模したとも言われている。

 いずれにしろ、これまでゼネバス人が尊重し、ネオゼネバス帝国でも使用したこの紋章を変えた事は、全く新しいゼネバスに生まれ変わったのだと言う、ヴォルフの強い意志の表れでもあったのかもしれない。

 また、旧幕府軍の去った後のドエには、奇襲用小型ゾイド「ヘルキャット」の量産工場が無傷で残されており、ヴォルフの命により10機を製造し戦力に加えていた。あまりに急な新政府軍の侵攻に、守将のマイケルも、工場を破壊する暇さえなかったのだ。

 そんなある日、皇居のヴォルフの元に、ドエ無血攻略の功労者「西郷特盛」が訪れていた。

「陛下! 拷問にかけていた捕虜がようやく賊軍の企みを白状しもうした、捕虜の言によれば、賊の残党は南方のズアイ藩に集結しており、これから訪れる深い雪を盾に防衛に回り、その間に北のディガルド帝国の援軍を得て、ドエを奪還する腹の様でごわした」

「何! ディガルドへ援軍要請だと!? 余は昔父上に、あの国は攻めるに難く、なお野心の強い国であるから絶対に触れてはならぬと聞いたことがある…、援軍など要請しても、どちらが勝とうが、その後弱った我らを倒してこの国を乗っ取るつもりであるのは火を見るより明らかではないか!! それはガーランド提督とて十分知っているはず、そんな下策に頼るとは、やつらも堕ちるところまで堕ちたものだ!!」

 ヴォルフは怒りの拳をテーブルにたたきつけた、もはや彼には、腐り切った古いゼネバスを葬り去る事に、何の躊躇も感じていなかった。

「奴らの思い通りにはさせん! すぐに軍を出せ、ズアイを賊の墓場にしてやるのだ!」

 こうしてヴォルフは最終決戦の覚悟でズアイ攻略の号令を全軍に下すのだった。

 一方その頃、旧幕府軍の拠点ズアイでは、ガーランド総裁が、ディガルド帝国から帰還した外交官ランスを迎えていた。

「良く戻ったランス、して首尾の方は…」

「申し訳ございません総裁…、やはり来年の春まで援軍は出せぬと…」

「終わった、もはやこれまでだ…」

 ランスの報告を聞いたガーランドはその場にがっくりとひざを付いた。

「かつて猛将とうたわれた提督が何を弱気な! 提督にはまだ、この35センチ3連装主砲3基を備える戦艦カイヨーを始め、強力無比な艦隊が残存しているではありませんか! それに、無補給でこの島を何周も出来る無敵のブラキオス戦隊も健在です! 戦い方次第ではディガルドの手など借りずとも十分戦えます!!」

「分かっておる、分かっておるがしかし…!」

 ガーランドの顔は青ざめ、全身は冷や汗でびっしょりと濡れていた。これまで幾多もの将兵の血と汗と涙によって受け継がれて来た伝統が、今やガーランド一人の肩にのしかかっているのである、さすがの猛将ガーランド提督も、その重圧に押しつぶされそうになるのも無理のない事であった。

タンオカ藩攻防 驚異のビームガトリング砲

 ヴォルフは軍を3つに分け、3方のルートから進軍させていた、旧幕府軍が結成した列藩同盟に参加する各地の藩を各個撃破し、外堀を埋めつつズアイ藩を追い詰めようと言うのである。

 特に、復帰した大田口廉也率いる東方攻略部隊の戦いは熾烈を極めた、特にこの戦いの記録を示すとしよう。

 大田口はヴォルフより、新たに戦力に加えられたヘルキャット10機と、マーダ12機、ザットン3機を与えられ、東方諸藩の攻略を命じられていた、その最大の目的は、旧幕府軍の補給の拠点となっている「フルガタ港」の奪取である。

 しかし、フルガタ港を目指す大田口軍の前に立ちはだかったのは、名将「河合継之進」率いる「タンオカ藩」であった。しかし、タンオカ藩が所有するゾイドは、若干モルガ2機だけであり、ものの数では無い。
 大田口は一気に突破しようと、勇んでタンオカ城に攻めかかった。

 しかしタンオカ城に攻め込もうとしたその時! 突如無数の光線が大田口軍を襲い、瞬く間にヘルキャット3機、マーダ4機が撃破され、将兵にも多数の死傷者を出してしまった。それだけでは無い、さらにどこからともなくかなりの威力の砲弾も撃ち込まれ、大田口軍は大混乱に陥り壊走を始めてしまった。

「逃げるな! もどれぇ!! 退くものは処刑だぁ!!」

 自身もヘルキャットに搭乗して指揮を取っていた大田口は、必死に叫びながら近くのマーダ1機を撃ちぬいて見せたが、ついに恐怖にかられた将兵を収拾する事が出来ず撤退した。
 後退して部隊を整えた大田口は、敵前逃亡の罪で将校数名を処刑した。

 翌日、大田口は再びタンオカ城に攻めかかった、同時に、前日の砲撃からおおよその敵砲台の位置を探り当てていた大田口は、ヘルキャット3機による別働隊を編成してその鎮圧に向かわせていた。

 自ら先陣を切って進む大田口軍に、再び無数の光線が降り注ぐ。ヘルキャットやマーダが1機、また1機と脱落していくが、昨夜の公開処刑を目の当たりにした将兵は怯むことなく前進を続けた。

 やがて、タンオカ城に近づくと、光線を発した張本人を目視する事が出来た。それは、小高い丘の上に据えられた2機のモルガであった。
 しかし、その背にはガイロス帝国のダークホーンのそれと同型のビームガトリング砲を背負っている、これは、河合が裏ルートによりガイロス帝国が破棄した武装を購入したものであった。

 しかし、今やその自慢のガトリング砲も沈黙している、小型ゾイドの、それも出力の低いモルガのコアでは、エネルギー消費の激しいこの砲をこれ以上撃つことはできなかったのだ。

 しかも、本来大型ゾイド用であるこの武装を無理にモルガに搭載したため重心バランスが崩れ、急いで撤退しようとした2機のモルガは転倒してあえなく戦闘不能となってしまった。

 自らこのモルガに搭乗してガトリングをぶっ放していた河合は、重傷を負いながらもからくもこの場を脱し、残党を引きつれてズアイへと逃れて行った、後に河合はこの時の傷が元で命を落としている。

 同時にヘルキャット別働隊も敵砲台の鎮圧に成功していた、この大砲も河合が裏ルートで入手した、モルガキャノリー用の「グラインドキャノン」であった。

 大田口はザットン輸送部隊に命じ、このモルガとグラインドキャノンを回収した、ビームガトリングとキャノンは予備としてドエへ送り、モルガはそのまま戦力として編入した。

 こうして手痛い損害を被ったが、大田口の決死の攻勢の前にタンオカ藩は降伏したのであった。

ディラン・シュテルマーと言う男

「大変ですガーランド総裁! フルガタ港が陥落しました!」

「ああ…、何という事だ、タンオカ藩に続いて補給の要衝であるフルガタ港まで失ってしまうとは…」

 次々と飛び込んでくる悪い知らせに、ガーランド総裁は頭を抱えるばかりであった。そんなガーランドに、傍らに居たランス外交官が励ましの声をかける。

「総裁、嘆くのはまだ早いですぞ! 旧幕府陸軍はブラックライモスなどの強力ゾイドを各地に配備して守りを固め、ズアイ藩も15歳以上の少年まで動員して戦争準備を進めております。我らの戦力も士気も決して敵に劣ってはいません! これを閣下の海軍が支援すれば、必ずや敵を撃滅する事が出来ましょう」

「フフ…、無理だよランス君、敵の改造レッドホーンを倒せる力は我が陸軍には無い」

「ですから! レッドホーンをうまくおびき出して、この戦艦カイヨーの35センチ砲で葬ってやるんです!!」

「フッ、やはり貴様は戦争と言うものを知らんな、敵も馬鹿では無い、そんなに簡単に行くものか、戦略の天才…、そう、貴様の父であるシュテルマーどのの様な智謀の将でもいれば話は別だがな。我らに滅亡は絶対に許されない、確実に勝てると確信でも持てない限り、最後の希望である我が艦隊を危険な賭け事に使う訳にはいかんのだよ」

(ダメだ、トップがこんな逃げ腰では勝てるものも勝てないではないか…!)

 ランスは拳を握りしめてガーランドを睨みつけたが、結局返す言葉も無く部屋を後にした。
 このランスと言う男、ガーランドが言った通り、あのハンス・シュテルマーの一人息子であるが、エレナとの純愛演出を目論むシュテルマーによってその存在を隠されたため、彼の正体を知る者はごく一部の者のみであった。

 家に帰ったランスが疲れた体をソファに横たえると、奥の部屋から一人の少年が出てきてランスに声をかけた。

「父上、紅茶をお持ちしました、今日もお疲れの様ですね、その様子ではやはりガーランド総裁は動いてくれなかったのですか…?」

「おお、ディランかありがとう、ああ、かつては猛将とうたわれたガーランド提督もすっかり弱気になってしまわれてな、このままではお先真っ暗だよ」

 ディランと呼ばれたこの少年、歳は16でランスの一人息子である。ランスは父の様に武勇にも智謀にも恵まれなかった、そのコンプレックスを埋めるべく、息子のディランには幼いころよりゾイドの知識を叩き込ませ、操縦技術はあのトビー将軍に師事させて厳しい訓練を受け、元々の才能もあって、既にベテランパイロットも凌ぐほどの技術を見せていた。

「父上、だったら僕に行かせてください、要は敵のレッドホーンをすべて片づければいいんでしょう? 僕をブラックライモスに乗せてくれれば、必ずやレッドホーンを倒して見せます! 我が師であるトビー将軍の仇も取りたいんです!!」

「しかし…、お前はまだ16歳だぞ、危険な戦場へ出す訳にはいかん」

「そんな事言ってる場合じゃないでしょう! ズアイ藩やその他の藩では15歳前後の男子まで動員されていると言うではありませんか! そんな時に同い年でありながら、誇り高きゼネバスの戦士が戦わないでいつ戦うんです!? 今でしょう!!!」

「…お前の覚悟はわかった、いいだろう、軍に掛け合ってお前をブラックライモスのパイロットにしてもらうように頼んでみよう…」

「ありがとうございます、父上!!」

 ディラン少年は闘志の炎をその目に宿した。

ディランの決意

「何? 敵のレッドホーンを倒して見せるからブラックライモスに乗せてくれだと?」

 あれから数日後、ランスは息子を引き連れて、ディランをブラックライモスのパイロットにしてくれるよう軍部に掛け合っていた。

「はい、わが子には幼いころより英才教育を施し、ゾイド操縦技術もトビー将軍に師事させ、そのセンスは亡きトビー将軍も認めておられました、正式な訓練をして、実戦を経験すれば、誰よりも強いゾイド乗りになるだろうと…」

「フン、だがまだ、その正式な訓練も実戦も経験していないのだろう? しかも16歳の若造に我が軍の最重要兵器を与える事など出来んな、帰りたまえ」

 担当官は始めから2人を相手にする気も無いような態度で、そう言うと背を向けてタバコをふかし始めた。すると、後ろのディランが前に出て口を開く。

「ならばせめてモルガでもいい! 私に何でもいいのでゾイドを与えて下さい! そうすれば必ずやレッドホーンを倒してご覧にいれます!!」

 それを聞くや、担当官はとっさに顔色を変えると、ツカツカとディランに進みより、思い切りディランの顔面を殴りつけた、ディランは後ろにのけ反り倒れる。

「貴様ぁ、今何と言った!? モルガ「でも」いいだと? 粗悪なへリックゾイドならいざ知らず、我がぜネバスのゾイドには大型であろうが小型であろうが優劣など存在せん!! それぞれがそれぞれの任務に適した最高の性能を持っているのだ、仮にブラックライモスでレッドホーンを倒したとしても、モルガが自分の任務を怠れば必ずほころびが出て負ける、そんな事もわからん未熟者にとてもゾイドを与える事など出来んな」

「く、くそ…!」

 ディランは切った唇から流れる血を手でぬぐいながら鋭い目つきで担当官をにらみつけた。

「…ほう、なかなかいい目をしている、血に飢えた狼のような…」

 そう言いながら担当官は、壁にかけてあったパンツァーファウストを取ると、ディランの前に差し出す。

「貴様を第27モルガ小隊につけてやる、間近でゾイド戦を見ながら、こいつで存分に働いて見せろ、そうすればゾイド乗りとしての道も開けるかもしれんぞ? フフ…」

 こうして2人は追い出されるように軍令部を後にした。ディランの手にはパンツァーファウストがしっかりと握られている。

「ディラン、モルガ小隊の随伴歩兵と言ったら、最も戦死率の高い言わば消耗品だ、他の兵科と違い、志願者がいないから常に人で不足。あの小ずるい担当官は、お前の熱い思いを利用してあんな事を言ったのだ、ディラン、そんなものは返して来い、お前は戦争が終わったら訓練校へ入校し、正式にゾイドパイロットになればいい」

「いいえ、やりますよ父上、僕はこいつで実力でのし上がりゾイド乗りとなって、必ずやハンスおじい様の敵、ヴォルフを討ち取って見せます!!」

 そう言ってディランはパンツァーファウストを握りしめるのだった。

第27モルガ小隊とディランの迷い

「わがモルガ小隊のもっとも重要な役目は何だ? 伊藤!」

「はっ! 敵大型ゾイドへ損害を与える事であります!」

「そうだ、同等の戦力の大型ゾイド同士の戦いを確実に勝利に導くためには、事前に敵ゾイドへ損害を与えておく事が重要となる、それが奇襲に適したこのモルガの役割だ。ではシュテルマー、味方の戦闘力を維持するためにはどうすれば良い?」

「はっ! 当然敵も狙いは同じでありますから、敵小型ゾイドを撃破する必要があります」

「よろしい、では、戦力が同等の小型ゾイド同士の戦闘に勝利するにはどうすれば良いのだ? 武田!」

「はっ! 我々随伴歩兵が敵小型ゾイドへダメージを与える事と、敵随伴歩兵を撃退する事であります!」

「その通りだ、これで分かった通り、ゾイド戦はピラミッド構造にになっておる、その最下層にいるのが貴様ら歩兵だ、つまり、ゾイド戦の勝敗は貴様らにかかっていると言っても過言ではないのだ、それを心して任にかかれよ?」

「はぁっ!!」

 ディランが第27モルガ小隊に着任してから、早数日が経っていた、今日も日課の朝礼が終わり、ディラン達は次の仕事であるモルガの清掃に取り掛かる、1時間かけて徹底的に磨き上げるのだ。その次は訓練、塹壕堀りと、下級兵士に休む暇などない。

 こうして朝4時に起床してから一仕事を終え、くたくたになった8時ごろ、ようやく朝食にありつける、しかし、朝食と言っても乾パンと水だけの質素なものである。

 そして、朝食を口に運ぼうとしたその時、突如顔を真っ赤にした上官がやってきた、先ほど清掃したモルガの所に集合しろと言う。

「おい! ここを掃除したのは誰だ!?」

 上官はモルガの車輪を指さしながら言った。見ると、車輪にわずかな埃が付いている。

「はっ…、自分であります」

 答えたのは気の弱い武田だった、今にも泣きだしそうだ。

「また貴様か武田! これで何度目だと思っているんだ! 清掃なんて戦いには関係ないと思って舐めているんだろう、このモルガ様は我が小隊の命、すなわち神だ! それをぞんざいに扱うとは何たる事だ! そういうたるんだ精神が多くの味方将兵の命を危険にさらすのだ。モルガ様もご立腹だぞ、これは連帯責任だ、貴様ら全員モルガ様の前で土下座しろ、そして、モルガ様、ごめんなさいと謝るんだ」

「モルガ様ごめんなさい、モルガ様ごめんなさい、モルガ様ごめんなさい、モルガ様・・・」

 上官の命令に、12人の兵士はモルガの前で土下座させられ、永遠1時間も「モルガ様ごめんなさい」を唱えさせられた。事の張本人である武田はこの後、皆からリンチを受けたのは言うまでもない。

「おいシュテルマー、貴様もやれよ! こいつのせいで俺たちがどんなに迷惑させられてるか、今日こそ体にしみこませてやるんだ!」

 武田をリンチする一人の兵士が、そばで傍観していたディランにも加わるよう促した。

「いや、俺はいいよ…」

「けっ! カッコつけやがって、いけすかねぇ野郎だ!」

 皆が去った後、ボコボコにされた武田の元へ、ディランは歩み寄った。

「武田、貴様のような愚図がどうして軍隊なんかに来た?」

「ふふ…、士族の家に生まれた者は戦うしか無い運命ですから、本当は僕、商人になりたかったんですけどね…、計算得意なんですよ」

「それならヴォルフの掲げる大ゼネバス帝国へ行けばいいじゃないか、あっちは国民すべて平等で、好きな道で生きられると言うぞ?」

 武田はよろよろと立ち上がると、服の汚れを叩き落とし、重い足取りで宿舎の方へと歩き出した。

「武士が殿様を見捨てるなんて事は出来ませんよ、それよりあなたはいいですねぇ、ゼネバス人ならいつかゾイド乗りになって、実力次第で士官への道も開ける、僕らは一生消耗品扱いですよ」

 一瞬振り返った武田の見せた表情は、諦めと切なさを含んだ笑顔であった。

(従順だ、あまりに従順すぎる、幼いころ見たガイロス帝国内での旧ゼネバス帝国難民を見ているかの様だ…、ヴォルフは同じ過ちを繰り返すまいと、国民皆平等などと言う理想国家を作り上げたのか? だとしたら俺は…、いや…、どうであろうと、ハンスおじい様の敵は取らねばならぬ、それがゼネバスの武人の定めなのだ…!!)

 必死に迷いを振り切ると、ディランも宿舎の方へと歩いて行くのだった。

クロカワ城の戦い

 11月中旬、破竹の勢いで進軍する新政府軍は、ついにズアイ藩ののど元であるクロカワ城にまで攻め上った。対する旧幕府軍は戦力をクロカワ城に集中、ブラックライモス4機からなる最強の突撃隊を初め、2500名にも及ぶ兵員を配備して防備を固めていた。その中には、ディランの所属する第27モルガ小隊の姿もあった。

 対する新政府軍は兵員は500名と、旧幕府軍の5分の1ながら、大型ゾイドのグレートホーン3機を擁し、装備の面では旧幕府軍を圧倒していた。

 ここ、クロカワ城は周囲を険しい山岳地帯で囲まれた天然の要塞であり、ここを突破しなくてはズアイにはたどり着けない、まさにズアイ藩の命運をかけた一大決戦の幕が開けようとしていた。

 クロカワ城防衛総司令官は、兵力にものを言わせて、新政府軍を正面から迎え撃とうと、軍を前方に進出させた、これにより、クロカワ城の戦力は少なくなっていた…。

「本当に全軍をこんなに進出させて大丈夫なのだろうか…? もしも敵が山岳地帯を迂回しクロカワ城を攻撃したら…」

 ここは第27モルガ小隊の所属する野戦陣地、心配性の武田がディランの隣でそうつぶやいた。

「偵察によると敵はまっすぐこちらへ向かっているというじゃないか、それに、あの険しい山岳地帯を進軍するのは無理だ、さらに、敵兵力はたったの500、それを分散させるとは考えられんよ、おおかた、レッドホーンを持っているから安心しきっているんだろう、その油断を突いてやればこっちのもんさ」

「そうだといいけど…」

 ディランはそう教えてやったが、武田はなおも不安な様子であった。

「そんな事よりも、敵のレッドホーンを倒すまたとないチャンスだ、こちらにはブラックライモスもいるから打撃力は十分ある、俺たちのサポート次第でレッドホーンを倒すのも夢じゃない、頑張ろうぜ!」

 ディランはそう言って武田を励ました、武田は無理やり笑顔を作り黙って頷くのだった。

 数刻後、数発の銃声がしたかと思うと、やがてけたたましい砲撃音に変わり地面が揺れた、ディランは鉢巻を固く締め直し、手に持ったパンツァーファウストを握りしめた、見ると、隣の武田の顔は緊張で凍り付いている、いつも威張っている上官達も緊張の面持ちで黙って砲声のした方を見つめていた、整列した12機のモルガは唸り声をあげ、今や遅しと動き出そうとしている。

 しばらくすると伝令が駆けつける。

「伝令! レッドホーン3機を含む敵主力部隊が前衛部隊と交戦中! 旗の数から見ると、敵兵力は1500はいる模様!!」

「何っ!? 敵兵力は500では無かったのか! だが、まだこちらの戦力の方が上だ、モルガ部隊、出撃だぁー!! 正面からの突撃で一気にレッドホーンへ接近し、ミサイルによりレッドホーンの武装を破壊して一撃離脱する!」

 部隊長の命令に、12機のモルガは一斉に動き出した、ディラン達歩兵もジープに分乗し、モルガ部隊に先行する。

 しばらくすると、ディランの乗ったジープのわずか10メートル先で砲弾がさく裂した、おそらくグレートホーンの120ミリリニアキャノンだろう、敵は近い。

「歩兵部隊、散開せよ! 敵歩兵の撃破および、敵ゾイドを発見次第攻撃するのだ!!」

 小隊長の号令に、歩兵たちはジープを乗り捨てて周囲の林の中に散開していった、武田も遅れまいとディランの背中を必死に追いかける。

 少し進むと、突如一発の銃声が鳴り、武田が額から血を噴き出して座り込んだ、即死であった、ディランはとっさに身を伏せ、武田を撃ったと思われる敵兵に狙いを定め、銃の引き金を引く、銃弾は見事、一撃で敵兵を仕留めた。

「敵は取ったぞ武田! あの世で立派な大商人になるのだな!!」

 今日まで同じ釜の飯を食ってきた戦友の突然の死にも、嘆く暇も恐怖する暇もなかった、こうして、ディランの初めての戦争が始まったのである。

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